散れども切れぬ備忘録

代数学やその他数学に関することなどをそこはかとなく書きつくる備忘録

ネイピア数を愛でよ(ネピア教狂信者の独白)

今回は 理系お馴染み、”数Ⅲで出てくるよくわからないアイツ”として知られる不遇の定数、「ネイピア数」について語っていきます。
以下のように進めていきます。前提知識は高校数学程度(極限・微分積分を使うので数III程度)です。

色々な定義


数学では新しい概念が出てくるとき、まず「存在」を疑います。
ネイピア数を定義しつつ、その存在を確かめることにしましょう。

定義(数列による定義)


 e_n=(1+\frac{1}{n})^nとし、その極限値ネイピア数eとする。

高校数学でも採用されているポピュラーな定義です。この定義で大丈夫だ、ということを言うためには「e_n がちゃんと収束すること」を示さなければなりません。これを示すために「上に有界な単調増加列は収束する」ということを公理(ルール)として採用することにします。

※単調増加: 全てのnに対して e_{n+1}\geqq e_nが成り立つ。
※上に有界: Eという数があり、全てのnに対してe_n\leqq E となる。

”単調増加”というのは、言わば「階段を上っていく。下ったり平らな道を歩いたりしない」ということで、また、”上に有界”というのは「天井がある」ということです。
つまり、「上に有界な単調増加列は収束する」というのは「階段を上っていき、下ることがないとすると、途中に天井があればぶつかる(しかも天井に頭を擦りながら歩くことになる)」と言い換えることができるのです。当たり前といえば当たり前ですね。
さて、証明です。

[証明]

(1)単調増加


一般化された相加・相乗平均(めんどくかったり循環論法になったりするので証明はしません。悪しからず。)を用います。
n個の \frac{n+1}{n}と1個の1に対し 相加・相乗平均を用いて、

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となります。
つまり、e_n は単調増加です。

(2)上に有界


証明を簡単にするためにe_{2n} について議論します。
しかし、全く同じ方法でe_n についても証明できるので、nを2nとしても一般性を失わないことがわかります。

はじめに「総積(普通は総乗と言いますが)」の記法を紹介しておきます。
 \displaystyle\prod^n_{k=0}a_k=a_0・a_1・...・a_nです。∑(総和)とよく似ていますね。
もう一つ、「二項係数」は \binom{p}{q}という風に表すことにします。

※ここからちょいちょい説明を省いていきます。所謂「行間」というヤツです。頑張って埋めてください()

これらの記法を用いて、\displaystyle a(n,k)=\frac{1}{k!}\!\prod^k_{m=0}(1-\frac{m}{2n}) ;a(n,0)=1
 \displaystyle b(n,k)=\binom{2n}{n-k}\frac{1}{(2n)^n}\frac{1}{(2n)^k}と定義します。
このとき、「二項定理」から
\displaystyle e_{2n} =\sum^n_{k=0}a(n,k)+\sum^n_{k=1}b(n,k)となることがわかります。
次に
\begin{align*}
\displaystyle \sum^n_{k=0}a(n,k) &\leqq \sum^n_{k=0}\frac{1}{k!} \\ & \leqq 1+\sum^n_{k=0}\frac{1}{2^k} \\ & \leqq 1+\sum^{\infty}_{k=0}\frac{1}{2^k}=3
\end{align*}
より
\displaystyle\sum^n_{k=0}a(n,k) \leqq 3...☆がわかります。
さらに、k≧1とすると
 b(n,k) \leqq \frac{1}{2}a(n,k)となるので、☆を用いて
\begin{align*}
\displaystyle
\sum^n_{k=1}b(n,k) & \leqq \frac{1}{2}\sum^n_{k=1}a(n,k)\\ & =\frac{1}{2}(\sum^n_{k=0}a(n,k)-a(n,0)) =1
\end{align*}
となるので、
 \sum^n_{k=1}b(n,k) \leqq 1...★がわかります。

以上より、☆と★を用いて、
 e_{2n}\leqq 4が成り立ちます。
つまりe_{2n}は (e_nも)上に有界です。

(3)収束


(1)と(2)より、 e_nは収束し、
おまけとしてその収束値が4以下であることがわかります。□

 

今回は厳密さを求めるあまり、評価がガバガバになってしまいました…(ネイピア数の値はおよそ2.7ですから、四捨五入したとしても整数部分さえ合っていません)

ネイピア数は、高校数学では「はい、これがネイピア数ね。大体2.72ね。」と突然言われてほったらかされがちです。それもそのはず、厳密にやろうとすると、上記の通り 大学数学 や ややこしい議論 を必要とするからなんですね。色々考えられた結果だったわけですね…。

御意見・コメント等頂けると嬉しいです。
それでは、また(*´ ³ `)ノ