代数的数全体の集合が体を成すことの証明(with体論)
《この記事はアドベントカレンダー「数学」(→https://adventar.org/calendars/3185 )の16日目の記事です。》
完全に私事なのですが、かなり前に「超越数論入門」と題して超越数論の基本をまとめました。そこでちょろっと紹介した「代数的数全体の集合は体を成す」という定理がありまして、知己から「証明が気になる」と言われたり、私自身も簡単な証明が無いか気になっていたりした(基本対称式をうだうだいじったり 行列を使ったりするのが自然に思えなくて気に食わなかったのです)のですが、つい最近 体論で殴れるということに気づきましたので、体論で殴る方法を紹介致します。
前提知識は高校数学です。(高校生向けに補足しておきますと、線形代数っぽいベクトルが出てくるのですが、まぁ数Bのベクトルと捉えて頂いても大丈夫です。ですが、矢張り できれば線形代数とかで出てくるベクトルを意識して頂いたほうがわかりやすいとは思います。)
基本概念
体論の話をするにあたって必要となる概念(定義)を紹介します。既にご存知の方は飛ばしていただいて構いません。
数の集合Fとその元a,bを用意しましょう。
この集合Fの中に+,-,×,÷(0で割ることは除く(以後一々断りません))という基本的な演算があって、a+b,a-b,a×b,a÷bの計算結果が全ていつでもFの元であるとき、Fを「体」と呼びます。例えば、有理数全体の集合(ℚと表します)や実数全体の集合,複素数全体の集合は体です。
実はℚは一番小さい体*1なのですが、これを拡大する(”ℚには含まれない数”を含む、ℚを基にした体を新たに作る)ことを考えます。体を拡大するときには 数を「添加」することが基本になります。例えばはℚに含まれないので、これをℚに添加することを考えましょう。{a+;a∈ℚ}という集合を考えてもいいのですが、これは残念ながら体にはなりません。ではどうすればいいかと言うと、「ℚとを含む最小の(等の余計な数を含まない)体」を考えればいいのです。このようにしてできた集合を「ℚ()」と表します。
実はℚ()={α+β;α,β∈ℚ}です。まるで 2次元の(1とという二つの数を軸に持つ)ベクトル空間のようだと思いませんか?ということで、これをベクトル空間だと思い込んで、次元(軸の数)を「拡大次数」と呼ぶことにします。「体を拡大したらベクトル空間になりました。ベクトル空間なら『次元』がありますよね、幾つですか?拡大次数ですよー。」という感じです。今は添加した数がだったので拡大次数が2になりましたが、例えばπを添加してしまうと拡大次数は∞になってしまいます。これではちょっと都合が悪い、ということで、拡大次数が有限になるような拡大のことを「有限次拡大」と呼んで区別します。有限次拡大は可成り行儀が良いので、専らこれをいじっていくことにします。
さて、 以下 F[x] で「Fの元を係数に持つ多項式(”0”を除く)全体の集合」を表すものとします。
「F上代数的」という概念を定義しましょう。Fを拡大してKという体を得たとします。Kの元aに対し、f(a)=0となるような多項式f(x)∈F[x]が存在するとき、aは「F上代数的である」と言います。例えばは有理係数の方程式の解になるのでℚ上代数的です。
Kの全ての元がF上代数的であるとき、FからKへの拡大を「代数拡大」と言います。例えば先の例の ℚからℚ()への拡大は代数拡大です。(ℚ()の全ての元(a+bとします)は有理係数の方程式 の解になるからです。)
主定理
さて、準備ができましたので代数的数全体の集合が体を成すことを示していきましょう。(おまけにもう一つ定理を示すことにします。お楽しみに(?))
先に補題を二つ示しておきます。
[補題1]
有限次拡大は代数拡大である。
[証明]
体Fを有限次拡大して体Kを得たとします。(さらに拡大次数をnとします。)
Kから任意に元を取ってきて(wとします)、これがF上代数的であることを示せばいいです。
というn+1個の元の集まりを考えます。これらは全てKの元です。そして Kの元なので「n次元ベクトル空間上のn+1個の数」となります。つまり 一次従属になるので、”全て0”でないFの元があって、となります。
これはwが多項式∈F[x]の根(「(多項式)=0」の解)になることを表しています。すなわちwはF上代数的になります。 □
[補題2]
有限次拡大の有限次拡大は有限次拡大である。
[証明]
Fを有限次拡大して、Kという体と基底を得、
Kを有限次拡大して、Lという体と基底を得たとします。
任意にLから元を取り、これをxとします。
xはK上のベクトルと捉えられるので、をm個取ってきて、とできます。(☆)
また各はF上のベクトルと捉えられるので、をn個取ってきて、とできます。(★)
☆と★よりとできます。つまり、LをF上のベクトル空間と捉えたとき、nm個のが基底になるということです。(実際、これらが一次独立である(ちゃんと空間の軸になる)ことが容易に確かめられます。)
nmは勿論のこと有限なので、FからLへの拡大は有限次拡大になります。 □
二つ補題を示したので主定理を示すことができます。
[定理]
代数的数全体の集合は体を成す。
[証明]
aとbをℚ上代数的な数(つまり代数的数)とします。
このとき明らかにa,b∈ℚ(a,b)です。
まず、aはℚ上代数的なのでℚ(a)はℚを有限次拡大して得られる体になります。
また、bはℚ上、つまりℚ(a)上でも代数的なので、ℚ(a,b)はℚ(a)を有限次拡大して得られる体になります。
よって、補題2より、ℚ(a,b)はℚを有限次拡大して得られる体になります。さらに、補題1より、ℚ(a,b)はℚを代数拡大して得られる体になるので、ℚ(a,b)の元は全てℚ上代数的、つまり代数的数になります。
したがって、ℚ(a,b)から元a+b,a-b,a×b,a÷bを取ってくると(ℚ(a,b)は体なのでこれら全てを含みます)、これらは全て代数的数になります。
つまり、代数的数同士の四則演算はまた代数的数になるので、代数的数全体の集合は体を成します。 □
ここからおまけパートです。
実は代数的数全体の集合をと書くことが多いのですが、この「¯」は「(代数)閉包」に由来しています。ということで、代数的数全体の集合がℚの代数閉包になることを示したいと思います。
「(ℚの)代数閉包」とは
①代数閉体である
②全ての元が(ℚ上)代数的である
という二つの条件を満たす集合のことです。
また、「(体Fが)代数閉体(である)」とは「Fの元を係数に持つ方程式を考えると、その解は全てFの元である」ということです。
は 代数的数,つまり ℚ上代数的な数全体の集合なので条件②はクリアしていますね。ということで、条件①も満たすことを今から示していきます。
その前に、補題を一つ示しておきましょう。
[補題3]
代数的な数を繰り返し添加する(有限回の)拡大は有限次拡大(かつ代数拡大)である。
[証明]
補題2よりすぐにしたがいます(ので証明は略します)。 □
[定理2]
代数的数係数方程式の解は代数的数である。
(代数的数全体の集合は代数閉体である。)
(系:代数的数全体の集合はℚの代数閉包である。)
[証明]
を代数的数とし、方程式を考えます。
まず、この方程式の係数を全て含む最小の体(「係数体」と言ったりもします)ℚ()を考え、これをKとおきます。
各はℚ上代数的なので、Kは補題3よりℚを有限次拡大して得られる体です。
また、方程式の解の一つを任意に取りrとすると、rはK上代数的なのでK(r)は有限次拡大です。つまりK(r)はℚを有限次拡大して得られる体になります。
ここで、補題1よりrはℚ上代数的になります。つまりrは代数的数です。
以上より、代数的数を係数に持つ方程式の解は代数的数になります。したがって、代数的数全体の集合は代数閉体です。 □
以上で紹介・証明を終わります。
メジャーな証明は行列式を使うみたいなのですが、前提知識が少し増えるので嫌だなぁ ということで、体論で殴ってみました。これも面白いでしょう?
最後までご覧頂き有難うございました。