散れども切れぬ備忘録

代数学やその他数学に関することなどをそこはかとなく書きつくる備忘録

階乗の逆数和について(超越数論の研究)

今回は最近うだうだと考えていたことを吐き出したいと思います。吐き溜めかつ備忘録なので適当に書きます。予め御了承下さい。

ネイピア数が階乗の逆数和で表されるというのはご存知でしょうか。母関数(\sum^∞_{n=0}\frac{x^n}{n!})を考えて微分方程式を解けば一発KO👊ですね。で、階乗の逆数和に似た級数を考えて、①ネイピア数無理数なので、その無理性について何か議論できないか②同じく超越性についてはどうだろうか ということを考えていたのですが、結果が出ましたので此処に報告致します。(超越性については さらに強い条件であるLiouville数であるかを考察しています。)

①無理性について

ネイピア数(\displaystyle\sum^∞_{n=0}\!\frac{1}{n!})を拡張した\displaystyle\sum^∞_{n=0}\!\frac{a_n}{n!}という形の級数について、以下の定理を得ました。

[定理]
整数列\{a_n\}∃C>0∀n,|a_n|\leqq Cを満たすとき、\displaystyle\sum^∞_{k=0}\!\frac{a_k}{k!}無理数である。ただし、a_k≠0となるkが無限個存在するものとする。※
※条件を満たすkが有限個しかないと有理数の有限個の和になり有理数になってしまうため。

[補題]
実数Aに対し、定数列でない数列p_n,q_nが存在し、
0<|q_nA-p_n|→0\ (n→∞)を満たすとき、A無理数である。

[証明]
略。□
(以下のブログの「無理性の証明その2」の「補題2」参照)
https://zangiri.hatenablog.jp/entry/2018/10/07/150035

[(定理の)証明]
\displaystyle q_n=n!,p_n=n!\sum^n_{k=0}\!\frac{a_k}{k!}とし、\displaystyle r_n=q_n\sum^∞_{k=0}\!\frac{a_k}{k!}-p_nとする。
|r_n|→0\ (n→∞)を示せばよい。
\begin{align*}|r_n|&=n!|\sum^∞_{k=0}\!\frac{a_k}{k!}-\sum^n_{k=0}\!\frac{a_k}{k!}|\\ &=|\frac{a_{n+1}}{n+1}+\frac{a_{n+2}}{(n+1)(n+2)}+\cdots|\\ &\leqq |\frac{a_{n+1}}{n+1}|+|\frac{a_{n+2}}{(n+1)(n+2)}|+\cdots\\ &\leqq|\frac{a_{n+1}}{n}|+|\frac{a_{n+2}}{n^2}|+\cdots\\ &\leqq\frac{C}{n}+\frac{C}{n^2}+\cdots\\ &=\frac{C}{n}(1+\frac{1}{n}+\cdots)\\ &=\frac{C}{n}\frac{1}{1-\frac{1}{n}}\\ &=\frac{C}{n-1}→0\ (n→∞)\end{align*}
となるから、
\displaystyle\sum^∞_{k=0}\!\frac{a_k}{k!}無理数である。 □

[系]
e,sin1,cos1,sinh1,cosh1は無理数である。

②超越性について

ネイピア数はS数と呼ばれる超越数で、一方Liouville数はU数と呼ばれる超越数で、これらを一挙に扱ってたらちょっと無理があるよな と思ったので、Liouville数だけ相手にすることにしました。

条件を強めて
a_k=1(if\ ∃m,k=f_m)(a_k=0(otherwise))
として、
\displaystyle\sum^∞_{k=0}\!\frac{a_k}{k!}=\sum^∞_{m=0}\!\frac{1}{(f_m)!}
を考えます。
\displaystyle q_n=f_n!,p_n=f_n!\sum^{f_n}_{k=0}\!\frac{a_k}{k!}=f_n!\sum^n_{m=0}\!\frac{1}{f_m!}として、|r_n|\leqq\frac{1}{(q_n)^n}=\frac{1}{(f_n!)^n}となれば
\displaystyle \sum^∞_{k=0}\!\frac{a_k}{k!}はLiouville数になります。

で、実際にLiouville数になるための条件として
f_0\geqq 1
f_{n+1}\geqq (n+1)f_n
を得ました。つまりf_n=n!ならギリギリ条件を満たすし、また、それ以上の増加速度を持つなら余裕で条件クリア というわけです。

[証明]
そもそもA!\leqq A^Aより
\frac{1}{(A!)^n}\geqq\frac{1}{(A^A)^n}=\frac{1}{A^{nA}}となるので、
|r_n|\leqq\frac{1}{f_n^{nf_n}}を示せれば充分。
ここで、
\displaystyle\begin{align*}r_n&=f_n!(\sum^∞_{m=n+1}\!\frac{1}{f_m!})\\ &=\frac{f_n!}{f_{n+1}!}+\frac{f_n!}{f_{n+2}!}+\cdots\\ &=\frac{1}{\prod^{f_{n+1}}_{\ell=f_n+1}\!\ell}+\frac{1}{\prod^{f_{n+2}}_{\ell=f_n+1}\!\ell}+\cdots\\ &\leqq \frac{1}{(f_n+1)^{f_{n+1}-f_n}}+\frac{1}{(f_n+1)^{f_{n+2}-f_n}}+\cdots\\ &\leqq\frac{1}{f_n^{f_{n+1}-f_n}}+\frac{1}{f_n^{f_{n+2}-f_n}}+\cdots\\ &=\frac{1}{f_n^{F_n}}+\frac{1}{f_n^{F_n+F_{n+1}}}+\cdots\ \ \ (※F_n:=f_{n+1}-f_n)\\ &\leqq\frac{1}{f_n^{F_n}}+\frac{1}{f_n^{F_n+1}}+\cdots\\ &=\frac{1}{f_n^{F_n}}\!\frac{1}{1-\frac{1}{f_n}}≒\frac{1}{f_n^{F_n}}\end{align*}
を得る。
仮定から
F_n=f_{n+1}-f_n\geqq nf_n
なので
結局r_n\leqq\frac{1}{f_n^{F_n}}\leqq\frac{1}{f_n^{nf_n}}\leqq\frac{1}{q_n^n}となるから、
f_nが先述した条件を満たせば
\displaystyle\sum^∞_{k=0}\!\frac{a_k}{k!}=\sum^∞_{m=0}\!\frac{1}{(f_m)!}
はLiouville数となる。 □

[系]

f_n=nf_{n-1}⇒f_n=n!
よって\displaystyle\sum^∞_{n=0}\!\frac{1}{(n!)!}はLiouville数。

f_n=(n+N)f_{n-1}⇒f_n=(n+N)!
よって\displaystyle\sum^∞_{n=0}\!\frac{1}{((n+N)!)!}∈\mathbb{L}

f_n=Nnf_{n-1}⇒f_n=(kn)\underbrace{!\cdots !}_{N}=N^n・n!
\displaystyle\sum^∞_{n=0}\!\frac{1}{((Nn)!...!)!}=\sum^∞_{n=0}\!\frac{1}{(N^n・n!)!}∈\mathbb{L}

f_n=n^Nf_{n-1}⇒f_n=(n!)^N
\displaystyle\sum^∞_{n=0}\!\frac{1}{((n!)^N)!}∈\mathbb{L}

n!_N:=(\cdots(n\underbrace{)!\cdots)!}_{N}
f_n=n!_N⇒f_n\geqq nf_{n-1}
\displaystyle\sum^∞_{n=0}\!\frac{1}{n!_N}∈\mathbb{L}\ ※N\geqq 2
(N=1⇒\sum^∞_{n=0}\!\frac{1}{n!}=e∉\mathbb{L})

③おまけ

詳しい条件は考慮中ですが、
特性方程式の解がℚ上一次独立になるような定数係数線形斉次漸化式を満たす数列a_n」について、
\sum^∞_{n=0}\!\frac{a_n}{n!}超越数になりそうです。
実際、a_nフィボナッチ数列とすると
\displaystyle\sum^∞_{n=0}\!\frac{a_n}{n!}=\frac{e^{\varphi}-e^{\bar{\varphi}}}{\varphi-\bar{\varphi}}となり、これは超越数です。

以上、備忘録的な記事でした。
何でもいいので情報があれば教えてくださると助かります。
(例:「この研究は既にされていてこんな論文がある」「~の部分の文字が間違っている」「③について考察してみたので見てくれ」)

【追記】
③についてです。
「解が”相異なる 0でない代数的数達”になるような方程式を特性方程式とする 定数係数線形斉次d階漸化式を定義の式とし、最初のd項が全て”0でない代数的数”であるような数列」をa_nとする。
このとき、f(x)=∑[n∈N](a_n)*(x^n)/(n!)とすると、fが0でない代数的数でとる値は超越数である
ことがわかりました のでここに報告致します。

ところで、これ実は思考のプロセスを逆に辿ると自明なんですよね。というのも、リンデマンワイエルシュトラスの定理からA_1*e^{α_1}+...+A_d*e^{α_d}みたいな形の数は超越数であり、これの母関数を考えると、件の級数が出てくるからなんです。
つまるところ「自明なので誰も触れてなかったものを触れただけであり、新発見等ではない」ということになりそうです。ちょっと残念ですが、全て自力で導けたのでそれでよしとします。