散れども切れぬ備忘録

代数学やその他数学に関することなどをそこはかとなく書きつくる備忘録

フィボナッチ数の逆数和について

この記事では「フィボナッチ数」とその逆数和について、ある面白い性質を紹介したいと思います。
フィボナッチ数の一般項も一から導くので「隣接三項間漸化式なんてワケワカメや…」という方も安心してください。

§1フィボナッチ数とその一般項

「そもそもフィボナッチ数って何?」という話をしたいと思います。
フィボナッチ数というのは
F_{n+2}=F_{n+1}+F_n,F_1=F_2=1
によって定められた数 F_n達のことです。式だけ眺めても「なんのこっちゃ」という感じでしょうから具体的に計算してみましょう。
まず、定義からF_1=1F_2=1がわかります。この二つの数からF_3F_3=F_2+F_1=1+1=2となることがわかります。この調子で計算していくと、F_4=F_3+F_2=3,F_5=5,F_6=8,\cdotsとなります。

このままでは規則性が分からないし、何より計算しづらいです(というかめんどくさい)。ということで、F_nを 定数とnを使った式で表現できないか、ということを考えます。幸いにも漸化式F_{n+2}=F_{n+1}+F_nが与えられているので、これをいじればなんとかなりそうだ と見当がつきます。
もし この漸化式を
(F_{n+2}-βF_{n+1})=α(F_{n+1}-βF_n)(☆)
という形に変形できれば、
a_n=F_{n+1}-βF_nとして
a_{n+1}=αa_nとなるので
a_n=α^{n-1}a_1となり、簡単な表示にできます。ということで、この形にできるようなα,βを求めましょう。

☆の式を変形すると
F_{n+2}=(α+β)F_{n+1}-αβF_n
となるので、フィボナッチ数の定義(の漸化式)からα+β=1,-αβ=1となることが分かります。ここでα,βを解に持つ方程式
(x-α)(x-β)=x^2-(α+β)x+αβ=0を考えると、α,βは方程式x^2-x-1=0の解であることがわかります(この方程式のことを「特性方程式」、その解のことを「特性解」と呼ぶことがあります(ここでは気にしなくて大丈夫です))。この方程式を解いて(解の公式を使うと楽です)α,β=\frac{1+\sqrt5}{2},\frac{1-\sqrt5}{2}を得ます。簡単のためにα>β、つまりα=\frac{1+\sqrt5}{2},β=\frac{1-\sqrt5}{2}としておきましょう。

分数と根号を使うのがめんどくさいので今まで通りα,βで代用しますが、とにかく定義の漸化式を
F_{n+2}-βF_{n+1}=α(F_{n+1}-βF_n)
と変形することができました。a_n=F_{n+1}-βF_nとすると
a_1=F_2-βF_1=1-β=\frac{1+\sqrt5}{2}=αなので
a_n=α^{n-1}・α=α^nとなります。
実は☆の式はαβを入れ替えても成り立ちます(特性方程式が同じものになるので)。つまり
F_{n+2}-αF_{n+1}=β(F_{n+1}-αF_n)
ともできるのです。
この式を解いた場合、b_n=F_{n+1}-αF_nとするとb_n=β^nとなります。
以上より
F_{n+1}-βF_n=a_n=α^n...①
F_{n+1}-αF_n=b_n=β^n...②
となるので、①-②を計算して
(α-β)F_n=α^n-β^nを得ます。
α-β=\sqrt5なので 結局
F_n=\frac{α^n-β^n}{\sqrt5}となります。

これでF_nnと定数で表すことができました。この表示を使うと計算がかなり楽になります。

§2逆数和とその収束

今回考える逆数和は 普通の逆数和\displaystyle\sum^∞_{n=0}\!\frac{1}{F_n}ではなく、添字が指数関数になっている\displaystyle\sum^∞_{n=0}\!\frac{1}{F_{2^n}}です。
まずはこの級数が収束するかを考えます。

丁寧に進めていくのでちょっと回りくどいように感じられるかも知れませんが御勘弁願います。

さて、まず
2^3=8\leqq 9=3^2\leqq (1+\sqrt5)^2
が成り立ちます。
ここで2\leqq 1+\sqrt5よりm=0,1,2,...とすると
2^{3+m}\leqq (1+\sqrt5)^{2+m}
2^{3+2m}\leqq (1+\sqrt5)^{2+2m}
となります。
n=m+1n=1,2,3,...とすると
2^{2n+1}\leqq (1+\sqrt5)^{2n}となるので
\frac{2^n}{(1+\sqrt5)^n}\leqq\frac{1}{2}\frac{(1+\sqrt5)^n}{2^n}
つまり
(\frac{1}{α})^n\leqq\frac{α^n}{2}となります。

αβ=-1よりβ=-\frac{1}{α}であることに注意して
\begin{align*}F_{2^n}&=\frac{1}{\sqrt5}(α^{2^n}-β^{2^n})\\ &=\frac{1}{\sqrt5}(α^{2^n}-(-\frac{1}{α})^{2^n})\\ &=\frac{1}{\sqrt5}(α^{2^n}-(\frac{1}{α})^{2^n})\\ &\geqq\frac{1}{\sqrt5}(α^{2^n}-\frac{α^{2^n}}{2})\\&=\frac{α^{2^n}}{2\sqrt5}\end{align*}
を得ます。

よって\frac{1}{F_{2^n}}\leqq\frac{2\sqrt5}{α^{2^n}}となるので
\begin{align*}\displaystyle\sum^∞_{n=1}\!\frac{1}{F_{2^n}}&\leqq\sum^∞_{n=1}\!\frac{2\sqrt5}{α^{2^n}}\\ &=2\sqrt5\sum^∞_{n=1}\!\frac{1}{α^{2^n}}\\&\leqq 2\sqrt5\sum^∞_{n=1}\!\frac{1}{α^n}\end{align*}
となりますが、\displaystyle\sum^∞_{n=1}\!\frac{1}{α^n}は公比\frac{1}{α}の無限等比級数であり|\frac{1}{α}|<1なので収束します。

したがって、\displaystyle\sum^∞_{n=1}\!\frac{1}{F_{2^n}}は収束します。

§3逆数和の超越性

今まで議論してきた逆数和が
超越数
②代数的数なら定義多項式はどんなものか
を知りたいので、それらを調べます。
(超越数や定義多項式超越数論の基本的な知識は下記ブログを参照してください↓)
https://zangiri.hatenablog.jp/entry/2018/08/25/103756

さて、
\displaystyle\sum^∞_{n=1}\!\frac{1}{F_{2^n}}=\sqrt5\sum^∞_{n=1}\!\frac{1}{α^{2^n}-(\frac{1}{α})^{2^n}}=\sqrt5\sum^∞_{n=1}\!\frac{(\frac{1}{α})^{2^n}}{1-(\frac{1}{α})^{2・2^n}}なので、
\displaystyle f(x)=\sum^∞_{n=1}\!\frac{x^{2^n}}{1-x^{2^{n+1}}}としてfを先に求めることにします。
(\displaystyle\sum^∞_{n=1}\!\frac{1}{F_{2^n}}=\sqrt5 f(\frac{1}{α}))です。)

\displaystyle\begin{align*}f(x^2)&=\sum^∞_{n=1}\!\frac{x^{2・2^n}}{1-x^{2・2^{n+1}}}\\ &=\sum^∞_{n=1}\!\frac{x^{2^{n+1}}}{1-x^{2^{n+2}}}\\ &=\sum^∞_{n=2}\!\frac{x^{2^n}}{1-x^{2^{n+1}}}\\ &=\sum^∞_{n=1}\!\frac{x^{2^n}}{1-x^{2^{n+1}}}-\frac{x^2}{1-x^4}\\ &=f(x)-\frac{x^2}{1-x^4}\end{align*}
なので
f(x^2)=f(x)-\frac{x^2}{1-x^4}となります。
両辺から\frac{1}{1-x^4}を引いて
\begin{align*}f(x^2)-\frac{1}{1-x^4}&=f(x)-\frac{x^2}{1-x^4}-\frac{1}{1-x^4}\\ &=f(x)-\frac{1+x^2}{1-x^4}\\ &=f(x)-\frac{1}{1-x^2}\end{align*}
となります。
つまりf(x^2)-\frac{1}{1-(x^2)^2}=f(x)-\frac{1}{1-x^2}となるので
f(x)-\frac{1}{1-x^2}は定数関数です。
xに0を代入するとf(0)-\frac{1}{1-0}=-1となるので
f(x)-\frac{1}{1-x^2}=-1より
f(x)=\frac{1}{1-x^2}-1=\frac{x^2}{1-x^2}となります。

fが求まったので件の逆数和の具体的な値が計算できます。
f(\frac{1}{α})=\frac{(\frac{1}{α})^2}{1-(\frac{1}{α})^2}=\frac{1}{α^2-1}ですが、
α^2-α-1=0よりα^2-1=αなので
結局\frac{1}{α^2-1}=\frac{1}{α}=-βとなります。
したがって
\displaystyle\sum^∞_{n=1}\!\frac{1}{F_{2^n}}=\sqrt5 f(\frac{1}{α})=\sqrt5\frac{\sqrt5-1}{2}=\frac{5-\sqrt5}{2}
となります。

見てわかるとおり、代数的数です。

代数的数だと分かったので定義多項式を求めましょう。
(以下簡単のため、件の逆数和をSと表記します。)
S=\frac{5-\sqrt5}{2}=3-αなので
α=3-Sです。
これとα^2-α-1=0より
S^2-5S+5=0です。
そしてこれはSの定義多項式になります。

つまりSは2次の代数的無理数なのです。

§4あとがき

今回の議論でSが代数的数であることが分かりました。
が、何が面白いのか、また 何故こんな級数を考えるのか疑問に思った方もいるのではないでしょうか。
実はこの数、面白いことに、一時期超越数だと勘違いされていたんです。
このSの形をした級数を除き、\sum^∞_{n=1}\!\frac{c_n}{F_{a^n+b}}超越数なのですが、これを最初に発表したMahlerという数学者が勘違いをしていて、後に訂正されたのです。ということで、今回は「例外」であることを示した、というわけなのです。
ちなみにf(x^2)=f(x)-\frac{x^2}{1-x^4}という関数方程式が出てきましたが、こんな感じの関数方程式を満たす関数を「Mahler関数」と言います。応用の幅がとてつもなく広いので 超越数論ではかなりメジャーで中心的な関数です。論文がゴロゴロ転がってるので超越数論をガッツリやりたいという方は調べてみてください。

それではこの辺で。
コメント等あれば遠慮なうどうぞ。