散れども切れぬ備忘録

代数学やその他数学に関することなどをそこはかとなく書きつくる備忘録

指数と超越数について

今回は題名の通り指数と超越数の関係について紹介します。備忘録なので結構適当に書きます。予め御了承下さい。

§1導入と補題

この世にはゲルフォントシュナイダーの定理という定理がありまして、ステートメントは以下の通りです。面倒臭いので以下GSと略記しますね。(証明はかなり面倒臭いのでしません。)

[定理](ゲルフォントシュナイダーの定理)(GS)
aを0,1でない代数的数、b有理数でない代数的数とする。
このときa^b超越数である。

分かりにくいので、簡潔に書くために「広義無理数」という概念を導入して、ちょっと条件を強くしましょう。
この記事内では「有理数でない”複素数”」のことを「広義無理数」と呼ぶことにします(普通の「無理数」は「有理数でない”実数”」です)。普通の無理数は勿論広義無理数ですが、\sqrt{-1}=i等の虚数(実数でない複素数)も広義無理数になります。ちなみに 一般的に使われている言葉ではないので注意してくださいね。あと、「代数的数であり広義無理数でもある複素数」のことを「代数的広義無理数」と呼ぶことにします。
条件を少し強くしたGSのステートメントは以下のように書けます。

[定理](GS')
a,bを代数的広義無理数とする。
このときa^b超越数である。

例えば、\sqrt2無理数である(つまり広義無理数でもある)ので\sqrt2^\sqrt2超越数ですし、i虚数なので広義無理数になり、i^i=e^{-\frac{π}{2}}超越数です。

また、自明ではありますが、次の補題(GS'の系)が成り立ちます。

[補題]
aを代数的広義無理数とする。
このときa^a超越数である。
逆に(対偶を取って)、a^aが代数的数であれば、aは代数的広義無理数ではない(有理数超越数である)。

この補題を使って面白い定理を示しましょう。

§2本題(超越数の指数)

ある数tがあってt^t=2だったとします。補題よりt有理数でなければ超越数となります。つまり、「超越数超越数乗は超越数である」の反例が作れるわけです。ということで、条件を満たすt有理数でないことを示しましょう。

[命題]
t^t=2を満たすt有理数でない。
(したがって補題から超越数である。)

[証明]
六個のステップに分けます。
また、以下n,mは正整数とします。

(i)t=nとします。
t^t=n^n=2となりますが、
1^1=1,2^2=4,3^3=27,...なので条件を満たすnは存在しません。よってtは正整数ではありません。

(ii)t=-nとします。
t^t=(-n)^{-n}=±\frac{1}{n^n}=2となるのでt^t=\frac{1}{n^n}=2とします。
n^n\geqq 1より\frac{1}{n^n}\leqq 1なのでこれは2になり得ません。
よってtは負の整数でもないので、(i)より整数ではありません。

(iii)t=\frac{1}{n}とします。
t^t=(\frac{1}{n})^{\frac{1}{n}}=\frac{1}{n^{\frac{1}{n}}}=2となるので
\frac{1}{n}=2^nとなりますが、\frac{1}{n}\leqq 1より不適です。
よってtの分子は1ではありません。

(iv)t=\frac{-1}{n}とします。
t^t=(-\frac{1}{n})^{-\frac{1}{n}}=±n^{\frac{1}{n}}=2となるので
n^{\frac{1}{n}}=2とします。
n=2^nとなりますが、
1≠2^1,2≠2^2,...なので条件を満たすnは存在しません。
よってtの分子は-1でもありません。

(v)t=\frac{n}{m}とします。
\frac{n}{m}は既約分数であるとしましょう。このとき(n,m)=1(nとmの最大公約数は1)(nとmは互いに素)です。
さて、t^t=(\frac{n}{m})^{\frac{n}{m}}=2となるので
\frac{n}{m}=2^{\frac{m}{n}}となります。つまり2^{\frac{m}{n}}有理数になります。したがって\frac{m}{n}は整数になるので(n,m)=1よりn=1となります。
しかし、このときt=\frac{1}{m}となってしまい(iii)よりこれは不適です。
よってtは正の有理数ではありません。

(vi)t=\frac{-n}{m}とします。
t^t=(-\frac{n}{m})^{-\frac{n}{m}}=±(\frac{m}{n})^\frac{n}{m}=2となるので
(\frac{m}{n})^{\frac{n}{m}}=2とします。(v)と同様にするとn=1となりますが、これは(iv)に反し、不適です。
よってtは負の有理数ではありません。

以上よりt有理数ではありません。□


今 間接的に「超越数超越数乗が代数的数になる」例が存在することを証明しましたが、実は「超越数超越数乗は常に代数的数になる」わけではないんですね。
実際、e^π=(i^i)^{-2}=i^{-2i}となりiも-2iも代数的広義無理数なのでe^π超越数になります。これも超越数のクソたる所以ですね…。

それではこの辺で。GSの証明が気になる方は森北出版の塩川宇賢 著『無理数超越数』を読んでみてください。そこそこ丁寧な証明が付いています。
また、ブログに関して何かあれば遠慮なく教えてください。