散れども切れぬ備忘録

代数学やその他数学に関することなどをそこはかとなく書きつくる備忘録

有限群の淡中再構成(Tannaka Reconstruction)その2

前回( https://zangiri.hatenablog.jp/entry/2019/10/17/023930 )に引き続き有限群の淡中再構成を紹介していきます。今回はいくつかの補題を述べたいと思います。

補題1

[補題1]
有限群Gとその元g∈G及びGの表現(V,φ)に対して
線型写像T^g_{(V,φ)}
∀v∈V,T^g_{(V,φ)}(v)=φ(g)(v)と定義する。
このとき射の族T^g=\{T^g_{(V,φ)}\}_{(V,φ)∈\mathrm{Rep}_G}
忘却関手Fテンソル自然自己同型である。
[証明]
T^g
①自然変換F⇒Fであること
②自然同型であること
テンソル自然変換であること
を示せばよいです。
①)下の図式を考えましょう。
F( (V,φ) )-F(f)→F( (W,ψ) )
T^g_{(V,φ)}↓\ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ ↓T^g_{(W,ψ)}
F( (V,φ) )-F(f)→F( (W,ψ) )
この図式が可換になればよいです。
つまり、任意のv∈Vに対し
T^g_{(W,ψ)}(f(v))=f(T^g_{(V,φ)}(v))となればよいです。
実際、
(左辺)=ψ(g)(f(v) )
(右辺)=f(φ(g)(v) )であり、
fは表現の射なのでこの二つは等しいです。
よって、T^gは自然変換F⇒Fです。
②)T^{g^{-1}}_{(V,φ)}を考えましょう。
T^g_{(V,φ)}T^{g^{-1}}_{(V,φ)}(v)
=φ(g)φ(g^{-1})(v)
=φ(e)(v)
=vであり、
これが任意のv∈Vに対して成り立つので、
T^g_{(V,φ)}T^{g^{-1}}_{(V,φ)}=id_Vであり、
同様にT^{g^{-1}}_{(V,φ)}T^g_{(V,φ)}=id_Vもわかります。
以上より、各(V,φ)に対してT^g_{(V,φ)}は同型なので、それらをコンポーネントとする自然変換T^gは自然同型です。
③)x∈V⊗︎Wを考えましょう。
x=\sum_{i,j}v_i⊗︎w_jと表せます。
このとき
T^g_{(V,φ)⊗︎(W,ψ)}(x)
=T^g_{(V,φ)⊗︎(W,ψ)}(\sum_{i,j}v_i⊗︎w_j)
=T^g_{(V⊗︎W,φ⊗︎ψ)}(\sum_{i,j}v_i⊗︎w_j)
=(φ⊗︎ψ)(g)(\sum_{i,j}v_i⊗︎w_j)
=\sum_{i,j}(φ(g)(v_i) )⊗︎(ψ(g)(w_j) )
=\sum_{i,j}(T^g_{(V,φ)}(v_i) )⊗︎(T^g_{(W,ψ)}(w_j) )
=(T^g_{(V,φ)}⊗︎T^g_{(W,ψ)})(\sum_{i,j}v_i⊗︎w_j)
=(T^g_{(V,φ)}⊗︎T^g_{(W,ψ)})(x)となります。
これが任意のx∈V⊗︎Wについて成り立つので、
T^g_{(V,φ)⊗︎(W,ψ)}=T^g_{(V,φ)}⊗︎T^g_{(W,ψ)}となります。
つまりT^gテンソル自然変換です。■

補題2

[補題2]
写像\mathcal{i}:G→\mathrm{Aut}^⊗︎(F)
\mathcal{i}(g)=T^gと定義する。
このとき\mathcal{i}単射群準同型である。
[証明]
①群準同型であること
単射であること
を示します。
①)任意の表現(V,φ)v∈V,g,g'∈Gに対して
T^{gg'}_{(V,φ)}(v)
=φ(gg')(v)
=φ(g)φ(g')(v)
=T^g_{(V,φ)}T^{g'}_{(V,φ)}(v)
が成り立つので、
\mathcal{i}(gg')=\mathcal{i}(g)\mathcal{i}(g')となります。
つまり\mathcal{i}は群準同型です。
②)群準同型であることを示したので核が\{e\}(自明群)であることを示しましょう。
T^g=Id_F⇒g=eを示せばよいので、g≠e⇒T^g≠Id_Fを示します。
ところで、Id_Fとは自然変換F⇒Fであり
任意の表現(V,φ)に対してId_{F_{(V,φ)}}=id_{F( (V,φ) )}=id_Vが成り立つものでした。
故に、或る表現(V,φ)が在ってT^g_{(V,φ)}≠id_Vとなるものが取れればよいです。
実際V=ℂG,φ=ℓ(正則表現)とすればg≠eである限りT^g_{(ℂG,ℓ)}≠id_Vとなり条件を満たします。
以上より\mathcal{i}単射です。■


次回はこの準同型\mathcal{i}全射である、つまり同型であることを示すことを目標とします。