散れども切れぬ備忘録

代数学やその他数学に関することなどをそこはかとなく書きつくる備忘録

淡中再構成(一点圏と前層圏)

以前 『淡中双対(モノイド作用)』(https://zangiri.hatenablog.jp/entry/2020/03/19/152756)という記事を書きました。これはもう題名の通りで、モノイドとその作用付集合の間には淡中双対と呼ばれる双対の関係がある、という内容でした。
今回もこれと全く同じ話を全く同じ構成で書きますが、少しアプローチを変えます。このアプローチは抽象的な手法(平たく言えば、元を取らない証明)に頼っているので、圏論の他の分野においても有用な視点をもたらすことでしょう。

まえがき(前提知識・注意)

前提知識 : 前提知識は大体『ベーシック圏論』の4章までです。米田の補題が既知とされています。

注意 : 一部、共変と反変を(区別するべきなのに)区別していない箇所があります。これはわかりやすくするためであり、また本質的には支障が無いためです。間違いに気付かれた場合は適宜脳内で修正しながら読んでいただけると有難いです。

Preliminaries

モノイド

モノイドとは集合Mと演算・\colon M×M→Mの組であって以下を満たすものです:
①任意のa,b,c∈Mに対して(a・b)・c=a・(b・c)
e∈Mがあって、任意のa∈Mに対してe・a=a=a・e

ここで、一点圏*1\bar{M}(対象を*とします)を考えましょう。
\bar{M}の唯一のHom集合Hom_{\bar{M} }(*,*)=End_{\bar{M} }(*)と合成による演算∘の組はこの2つを満たします(e=id_*とすればよいです)。よって、一点圏(のHom集合)からモノイドが得られます。逆に、全てのモノイドは一点圏のHom集合として表せるので、モノイドMHom_{\bar{M} }(*,*)を同一視することができます。また、Hom_{\bar{M} }(*,*)\bar{M}のみに依って定まるので、Hom_{\bar{M} }(*,*)\bar{M}も同一視できます。
この意味において、モノイドMと一点圏\bar{M}は同一視できます。

モノイド作用付集合

モノイドMに対して、集合F_*(と作用と呼ばれる演算M×F_*→F_* \colon (a,x)↦a·xの組)がM-作用付集合(または単にM-集合)であるとは、以下の2つを満たすことをいいます:
(ab)·x=a·(b·x)
e·x=x

ここで、関手F\colon M→Setの像F(*)を考えてみましょう。
a∈M=Hom_M(*,*),x∈F(*)に対して、
a·x=Fa(x)と定義すると、(関手は合成と恒等射を保つので)これは①,②を満たします。
よって、M-集合F_*F(*)は同一視できます。また、F(*)Fのみに依って定まるので、F(*)Fも同一視できます。
この意味において、M-集合と関手M→Setは同一視できます。

前層圏と米田の補題

Cに対し、関手圏\hat{C}=[C,Set] Cの前層圏と呼びます。
一点圏Mの前層圏\hat{M}の対象は既に見た通りM-集合ですが、射はどうなっているか見てみましょう。
M-集合F_*,G_*写像f\colon F_*→G_*に対して、ff(a·x)=a·f(x)を満たす(作用を保つ)とき、fをM-集合準同型と呼びます。

M-集合は関手だったので、その間の自然変換を考えてみましょう。
F,G\colon M→Setを関手、θ\colon F⇒Gを自然変換とすると、θの唯一の成分θ_*\colon F(*)→G(*)は 任意の射a∈Hom_M(*,*)=Mに対してθ_*∘Fa=Ga∘θ_*を満たします。
Fa(x)=a·xに気をつけると、
これはθ_*(a·x)=a·θ_*(x)と書け、M-集合準同型に他なりません。
また、逆にM-集合準同型から自然変換を得ることもできるので、結局 自然変換θ∈Hom_{[M,Set]}(F,G)とM-集合準同型f\colon F^*→G^*は同一視できます。
さらに、このことからM-集合の圏と前層圏[M,Set] も同一視できます。

さて、後に使うことになる米田の補題とその系を復習しておきます。

[米田の補題]
C,関手F\colon C→SetとHom関手Hom_C(a,-)=よ_a\colon C→Setに対して、以下の同型が成り立つ:
Hom_{[C,Set]}(よ_a,F)≅F(a)

この定理においてF=よ_bとすると、以下が成り立ちます:
[米田の補題の系]
Hom_{[C,Set]}(よ_a,よ_b)≅Hom_C(b,a)が成り立つ。
また、この同型は対応よ_f↤fによって与えられる。

証明はここでは行いません。

また、一点圏上のHom関手について考えてみると、以下のようなことがわかります:
一点圏上のHom関手よ_*∈[M,Set] はM-集合であり、特によ_*(*)=Hom_M(*,*)=Mなのでこれは正則加群*2に他なりません。

Lemma

淡中双対を示す前に、その証明で重要になる以下の補題を示しておきます:
[補題]
忘却関手ω\colon M-Set=[M,Set]→Setは表現可能であり、特にその表現対象は正則加群である。
[証明]
米田の補題からHom_{[M,Set]}(よ_*,F)≅F(*)であり、
F(*)はM-集合(を関手とみなしたもの)の像、つまりその台集合なので、Hom_{[M,Set]}(よ_*,-)は忘却関手そのものです。 ■

このことから
ω=Hom_{[M,Set]}(よ_*,-)=よ_{ (よ_*) } と表せることもわかります。

Main Theorem

End(ω)=Hom_{[ [M,Set],Set]}(ω,ω) を考えてみると、次の定理(モノイド作用の淡中双対)が成り立ちます:
[定理]
End(ω)M=Hom_M(*,*)はモノイドとして同型である。
[証明]
まず、集合として同型であることを示します。
米田の補題の系から
End(ω)=Hom_{[ [M,Set],Set]}(よ_{ (よ_*) },よ_{ (よ_*) }
≅Hom_{[M,Set]}(よ_*,よ_*)
≅Hom_M(*,*)=Mとなります。
よって、End(ω)≅_{Set}Mです。
乗法についても
a∈Mよ_{ (よ_a) }に、abよ_{ (よ_{ab}) }に対応させればモノイドとして同型になることがわかります。 ■

以上、モノイド作用の淡中双対を前層圏を使って証明してみました。大きな道具を使うことで見通しが良くなった部分もあるのではないかと思います。
また、この議論は豊穣圏でも通用するので、気が向いたらそういった記事も書きたいなと思います。
最後まで読んで頂き有難うございました。

*1:対象が一つしかない圏を一点圏と呼びます。

*2:モノイドM自身を乗法M×M→MによってM-集合とみなしたもの