散れども切れぬ備忘録

代数学やその他数学に関することなどをそこはかとなく書きつくる備忘録

淡中再構成(モナドと作用付集合)

【この記事は アドヴェントカレンダー Math https://adventar.org/calendars/5029 の6日目の記事です】

今回は、以前書いた『 淡中再構成(モノイド作用)』を一般化して、モナドとその加群*1についての淡中再構成を証明します。
前提知識は以前と同様に圏論の初歩、『 ベーシック圏論』程度です。

モナド加群

集合の成す圏をSetと表します。
SetからSetへの関手T
自然変換μ\colon TT⇒T,η\colon Id_{Set}⇒Tを持ち、これらが任意の集合Xに対して
μ_X(μ_{TX})=μ_X(Tμ_X)
μ_X(η_{TX})=id_{TX}=μ_X(Tη_X)
を満たすとき、組(T,μ,η)または単にTを(Set上の)モナドと呼びます。
本来モナドは任意の圏の上で考えることができますが、ここでは簡単のためSetに限ります。

例)Mを集合とします。
関手M×?\colon Set→Set\colon X\mapsto M×XMがモノイド(単位的半群)であるとき、またそのときに限りモナドになります。
これを(左)テンソル作用関手(モナド)と呼びます。

Mがモノイドであるとき、その上の加群(作用付き集合,M-集合)を考えることができますが、モナドに対しても殆ど同様に加群を考えることができます:
モナドTに対して、集合X写像(構造射とも呼びます)ρ_X\colon TX→Xの組(X,ρ_X)が次の条件を満たすとき、これをT-加群と呼びます:
ρ_X(μ_X)=ρ_X(Tρ_X)
ρ_X(η_X)=id_X

T-加群(X,ρ_X),(Y,ρ_Y)に対して、写像f\colon X→Yρ_Y(Tf)=f(ρ_X)を満たすとき、fはT-線型であるといいます。

例)モノイドMに対して、
M×?-加群はM-集合に他なりません。
また、M×?-線型写像とはM-写像(M-準同型)のことです。

T-加群を対象、T-線型写像を射とする圏を得ることができます。これをT-Mod,T-Setと表します。

淡中の補題

随伴からモナドを得ることができます*2が、逆にモナドを随伴に分解することができます。

モナド上の加群については自然に忘却関手が定まります : U_T( (X,ρ_X) )=Xとすると、これは関手U_T\colon T-Set→Setを定めます。
忘却関手の左随伴(つまり自由関手)としてF_T\colon Set→T-Setも構成できます : F_T(X)=(TX,μ_X)とすればよいです。
(F_T(X)を自由加群と呼ぶことがあります。特に、F_T(1)は正則加群と呼ばれます。)

また、これらはU_TF_T=Tを満たします。
この2つの関手は実際に随伴になります。*3

以上のことから
モナドTに対し、2つの関手F_T,U_Tが定まり、T=U_TF_Tを満たす。
F_TU_Tは随伴である。すなわち、
Hom_{T-Set}(F_T(X),(Y,ρ_Y) )≅Hom_{Set}(X,U_T( (Y,ρ_Y) ) )が成り立つ。
ということがわかりました。
このことから以下の補題を導けます:

[淡中の補題]
任意のT-加群(X,ρ_X)に対して
Hom_{T-Set}( (T1,μ_1),(X,ρ_X) )≅Hom_{Set}(1,X)が成り立ちます。
[証明]
先の②の式についてX=1とすればよいです。■

また、集合の圏においては
Hom_{Set}(1,X)≅Xが成り立つので、以下の補題をも導くことができます:

[淡中の補題 ver.2]
Hom_{T-Set}( (T1,μ_1),(X,ρ_X) )≅Xが成り立ちます。
特にU_T≅Hom_{T-Set}( (T1,μ_1),?)が成り立ちます。
(この関手を以後 簡単の為簡単のため よ_{T1}と表します。)

淡中再構成

淡中の補題と米田の補題から以下の定理を導くことができます:

[モナドに対する淡中再構成定理]
集合としての同型End(U_T)≅T1が成り立ちます。
[証明]
End(U_T)=Hom_{[T-Set,Set]}(U_T,U_T)(定義)
≅Hom_{[T-Set,Set]}(よ_{T1},よ_{T1})(淡中の補題)
≅Hom_{T-Set}( (T1μ_1),(T1μ_1) )(米田の補題)
=よ_{T1}( (T1,μ_1) )(米田埋込の定義)
≅U_T( (T1,μ_1) )(淡中の補題)
=T1(忘却関手の定義)


冒頭にも書いた通り、以前『淡中再構成(モノイド作用)』という記事を書きましたが、今回の内容はこれの拡張にもなっています。
最後の同型がモノイドとしても同型になっているか、また豊穣圏についても成り立つか について勉強中なので、結果が出たら更新したいと思います。

*1:「代数」や「アイレンベルクムーア対象」と呼ばれることが多いですが、ここでは加群と呼ぶことにします。

*2:随伴F\dashv Gの単位をη,余単位をεとすると、組(GF,GεF,η)モナドになります。

*3:単位をη\colon Id_{Set}⇒T=U_TF_Tとし、余単位ε\colon F_TU_T⇒Id_{Set}ε_{(TX,μ_X)}=ρ_X\colon (TX,μ_X)→(X,ρ_X)とすればよいです。