散れども切れぬ備忘録

代数学やその他数学に関することなどをそこはかとなく書きつくる備忘録

メモ8(淡中随伴)

メモです。

2020年10月あたりから考え始めて、2021年5/12に解決した、淡中随伴の証明をします。



まえがき

淡中随伴とは、大雑把に言えば
圏MonVと圏V-Cat/Vの間に 関手Endと関手tanがあり、またこれらによる反変随伴がある
という定理である。
淡中双対と呼ばれる「モノイドの持つ対称性は、その加群の圏に(全体的に分散されながら)遺伝する」「加群の圏の持つ対称性は係数モノイドの対称性に復元される」という定理があるが、淡中随伴はこの「遺伝・復元」する操作を与えると考えられる。
淡中随伴には共変なものと反変なものがあり、コエンドを用いた共変なものがよく知られているが、今回はエンドを用いた反変淡中随伴を証明する。

反変随伴

まず、反変関手の随伴を復習しておく。
反変随伴はただの反変関手間の随伴であるが、定義が紛らわしいと感じたのでここにまとめておく。

[定義]
C,D を圏とする。
関手 C^{op}→D CからD への反変関手と呼ぶ。

さて、先述した通り、反変関手間の随伴が反変随伴である。ここでは単位・余単位を用いた三角等式で随伴を定義する。

[定義]
 C,Dを圏とし、
F\colon C^{op} →D,G\colon D→C^{op}を反変関手とする。
単位と呼ばれる自然変換η\colon Id_C→GF
余単位と呼ばれる自然変換 θ\colon Id_D→FGがあり、
これらが以下の等式を満たすとき、組(F,G,η,θ) 或いは単に組(F,G) は 随伴 であるという*1:
任意の対象 x∈C,y∈Dに対して
 F(η_x)∘θ_{Fx}=id_{Fx}
 G(θ_y)∘η_{Gy}=id_{Gy}

これは以下の条件と同値である:
任意の対象 x∈C,y∈Dに対して
同型 Hom_D(y,Fx)≅Hom_C(x,Gy)
x,y について自然に成り立つ。

この同型は具体的には以下のように与えられる:
 g\colon y→Fx\bar{g}= Gg∘η_x\colon x→Fyに写し、 f\colon x→Fy \bar{f}=Ff∘θ_y\colon y→Gxに写す。

淡中随伴

準備

ここからは淡中随伴の証明に必要な準備をし、また実際に示すことを目標とする。

以下、 Vを完備なモノイダル閉圏とする。

圏の構成

まず圏を構成する。
 MonV V上のモノイド対象*2とそのモノイド準同型射*3の成す圏とする。

また、 V-Cat/V V豊穣圏の成す圏 V-Cat Vにおけるスライス圏*4とする。

関手の構成

次に、関手を構成する。
 End\colon V-Cat/V→MonVを次のように定める:
対象(C,ω_C)∈V-Cat/V End(ω_C)=Hom_{Func(C,V)}(ω_C,ω_C)に写す。(C からV への V関手の成す V豊穣圏を Func(C,V)と書く。)これはメモ3*5の議論よりV のモノイド対象であるから、 MonVの対象になる。
また、射 F\colon (C,ω_C)→(D,ω_D)End(F)\colon End(ω_D)→End(ω_C) に写す。これは具体的にはEnd(ω_D)\ni σ\mapsto σ・F∈End(ω_C)で与えられる。より詳細には、\{ σ_d\colon ω_D(d)→ω_D(d) \}_{d∈D} \{ σ_{Fc}\colon ω_D(Fc)→ω_D(Fc)\}_{c∈C} に写すが、これはω_D∘F =ω_Cなので結局 \{ σ_{Fc}\colon ω_C(c)→ω_C(c) \}_{c∈C}となる。これは MonVの射になる。
こうして得られた関手End をエンド構成と呼ぶことがある。

また、関手tan \colon MonV→V-Cat/V加群の係数制限によって与えられる。すなわち、
対象 A∈MonVをその上の加群の圏*6と忘却関手*7の組(A-V,U_A)∈V-Cat/V に写し、
f\colon A→B を係数制限 f^*\colon (B-V,U_B)→(A-V,U_A)に写す。これはより詳細には f^*\colon (X,ρ_X)\mapsto (X,ρ_X∘(f⊗X) ) f^*(g)=gによって与えられる。
こうして得られた関手 tanを淡中構成と呼ぶことがある。

単位の構成

さて、最後の準備として、淡中随伴の単位・余単位になる(はずの)自然変換を構成しよう。

まず、単位は η\colon Id_{V-Cat/V}⇒tan∘Endだが、具体的にはη_{(C,ω_C)}\colon (C,ω_C)→(Endω_C-V,U_{Endω_C}) で与えられる。
これがV-Cat/V の射としてWell-definedであることを示したいので、より詳細に見ていく。

些か天下り的ではあるが、 η_{(C,ω_C)}\colon X\mapsto (ω_CX,φ_X)とし、 φ_X\colon Endω_C→End_V(ω_CX) φ_X(σ)=σ_Xと定める。
このとき、 φ_Xはモノイド準同型だから (ω_CX,φ_X) Endω_C-加群であり*8 ω_C=η_{(C,ω_C)}∘U_{Endω_C}も成り立つので、
 X∈C∈V-Cat/Vに対してはWell-definedである。

また、C の射f\colon X→Y に対しても、η_{(C,ω_C)}(f)=ω_C(f) とすればよい。
実際、任意のσ ∈Endω_Cに対して σが自然変換であることから
φ_X(σ)∘ω_C(f)=σ_X∘ω_C(f)=ω_C(f)∘σ_Y=ω_C(f)∘φ_Y(σ)
を満たし、よって Endω_C加群準同型だからWell-definedである。

以上のことから、η_{(C,ω_C)}  V-Cat/Vの射としてWell-definedである。

また、この単位 η\colon Id_{V-Cat/V}⇒tan∘Endが自然変換になることを示さなければならない。そのためには、 V-Cat/Vの任意の射F\colon (C,ω_C) →(D,ω_D)に対して η_{(D,ω_D)}∘F=(tan∘EndF)∘η_{(C,ω_C)}(☆)が成り立つことを示せばよい。
対象 X∈Cに対しては (η_DFX,φ_{FX})=(η_CX,φ_X∘EndF)を示せばよい。
まず、
 U_{Endω_D}∘η_D∘F=ω_D∘F=ω_C=U_{Endω_C}∘η_C
だから、 Vの対象としてはη_DFX=η_CX である。
また、 τ∈Endω_Dに対して
φ_{FX}(τ)=τ_{FX}=(τ・F)_X=φ_X∘EndF(τ)
だから、構造射も同じである。
故に、対象については(☆)が成り立つ。
さらに、 Cの射 fに対しても、
 η_D∘Ff=ω_D∘Ff=ω_Cf=(EndF)^*(ω_Cf)=tan∘EndF∘η_C(f)
が成り立つので、(☆)が成り立つ。

余単位の構成

次に、余単位 Id_{MonV}⇒End∘tanを構成する。
ところが、淡中再構成*9の議論よりこれ(の各成分)は同型であるから、それをそのまま余単位(の成分)とすればよい。もう少し詳しく述べれば、この同型は淡中の補題による同型と米田の補題による同型を経由する。

なお、淡中随伴の単位(或いは単位が同型になるか?という問題)を淡中再認識、余単位(或いは余単位が同型になるか?という問題)を淡中再構成と呼ぶことがある。今回の場合、余単位は同型だが、単位は同型でない。

証明

単位・余単位(になるはずの自然変換)を構成できたので、これらが三角等式を満たすことを示す。
とは言ったものの、
 End(η_C)∘θ_{Endω_C}=id_{Endω_C}
 tan(θ_A)∘η_{tanA}=id_{tanA}
を示すのだが、余単位が同型なので等式が成り立つことがすぐにわかってしまう。*10

よってEnd  tanは随伴である。

念のため、もう一度主張を掲げておく:
[定理](反変淡中随伴)
 V-Cat/V,MonVの間に
関手 End\colon V-Cat/V→MonV,tan\colon MonV→V-Cat/Vを構成でき、
これが反変随伴になる。
この随伴の余単位は同型だが、単位(またはその成分)は同型とは限らない。

*1:このときF G の左随伴、 GF の右随伴と呼ぶ。

*2:(A∈V,m\colon A⊗_VA→A,u\colon 1_V→A) で、m∘(m⊗A)=m∘(A⊗m),m∘(u⊗A)=A=m∘(A⊗u)を満たすもの。mをAの乗法、uをAの単位と呼び、これらが明らかな時には(A,m,u)を単にAと書く。

*3:  Vの射であって、モノイド対象の乗法と単位を保存するもの。

*4: 対象は V豊穣圏 C V関手 ω_C\colon C→Vの組 (C,ω_C)であり、射は V関手 F\colon C→Dω_C=ω_D∘F を満たすものであるとする。

*5: https://zangiri.hatenablog.jp/entry/2021/02/01/095156

*6:  Vにおけるモノイド対象 Aの上の加群対象、或いは単に A-加群とは、対象X∈V と構造射と呼ばれる射 ρ_A\colon A⊗X→Xの組 (X,ρ_A)であり、特に ρ_X∘(m⊗X)=ρ_X∘(A⊗ρ_X)ρ_X∘(u⊗X) =Xを満たすもののことである。また、 A加群準同型射とはV の射f\colon X→Y であり、f∘ρ_X=ρ_Y∘f を満たすもののことである。加群加群準同型は圏を成し、特に Vが完備であるから( A-V≅Func(\mathbb{B}A,V) だから) V豊穣圏にもなる。

*7: A-V\ni (X,ρ_X)\mapsto X∈Vによって与えられる(つまり加群の構造射を忘れる) V関手 U_A\colon A-V→Vのことである。淡中の補題から、U_A≅Hom_{A-V}(A,-) と定義してもよい。

*8:加群の構造射による定義とモノイド準同型による定義の同値性についてはメモ7 (https://zangiri.hatenablog.jp/entry/2021/03/26/014319)においても論じられている。

*9: https://zangiri.hatenablog.jp/entry/2020/09/22/234153 と同様の議論を一般の豊穣圏について行えばよい。

*10: 少し詳細に見ると、EndU_{Endω_C}≅Endω_C,\{σ_X\}_{X∈Endω_C-V}=\{σ_{η_CX}\}_{X∈C} , θ_A^*は同型 などの事実から従う。