散れども切れぬ備忘録

代数学やその他数学に関することなどをそこはかとなく書きつくる備忘録

メモ5(単位元の普遍性)

メモです。
2020年の年末くらいに考えていた「淡中の補題単位元の普遍性を用いた別証明」の解説です。



[定理](米田の補題)
Cを局所小圏、F\colon C→Setを関手、a∈Cを対象とせよ。
このとき、集合としての同型
Hom_{[C,Set] }(Hom_C(a,-),F)≅F(a)がある。

[略証]
この同型はθ\mapsto θ_a(id_a)によって与えられ、
これの逆はx\mapsto Ψ^xによって与えられる。
ただし、f\colon a→bに対してΨ^x_b(f)=Ff(x)とする。

[補題](表現対象の普遍性)
関手F\colon C→SetA∈Cで表現可能
( F≅Hom_C(A,-) )

F(A)の元uがあって、
任意のX∈C,x∈F(X)に対して
(Fx')(u)=xとなるx'\colon A→Xが一意的に存在する。(☆)

[証明]
米田の補題より、u∈F(A)を取って
Ψ^uが同型⇔(☆)
を示せばよい。

Ψ^uは自然変換Hom_C,(A,-)⇒Fであった。
故に、
Ψ^uが同型
Ψ^uの全ての成分が同型
⇔任意の対象X∈Cに対してΨ^u_Xが同型
となる。
Ψ^u_X\colon Hom_C(A,X)→F(X)だから、
これが同型であること
Ψ^u_Xが一対一対応を与える
⇔各x∈F(X)に対してx'\colon A→Xが定まり、Ψ^u_X(x')=xとなる
となる。
Ψ^u_X(x')=(Fx')(u)なので、これは(☆)と同値である。 ■

さて、モノイドMに対する淡中の補題とは以下の主張であった :
[定理](モノイド作用付集合の淡中の補題)
忘却関手F\colon M-Set→Setは正則加群Mで表現可能である。

これは先の補題を用いれば次のように言い換えられる :
[命題]
(集合としての)Mの元u∈Mがあり、
任意のM-集合Xと(集合としての)Xの元x∈Xに対して
(Fx')(u)=xとなる M-準同型x'\colon M→Xが存在する。(☆)

これはより簡潔に書けば
[命題]
Mをモノイドとする。
このとき、任意のM-集合Xのその元x∈Xに対して
x'(u)=xとなるM-準同型x'\colon M→Xが存在する。
となる。
これは実際に成り立ち、uM単位元とし、x'=ρ(-,x)とすればよい。
このときx'M-準同型であることと一意的であることは自明であるものとする。

また、この事実は以下のようにも表現(expression)できるだろう :

モノイドM単位元u(或いは単位元を取る射u\colon 1→M)は次の意味で普遍的である:
どんなM-加群Xとその元x(或いは元としてxを取る射x\colon 1→X)に対しても、射φ\colon M→Xが一意的に存在し、φu=xを満たす。
なお、このφρ_X(-,x)で与えられる。

これはモノイドの単位元が或る意味で"普遍的"である(普遍性を持つ)ことを言っていると考えられる。

つまり、淡中の補題とは、見方を変えれば"単位元の普遍性"から従う定理であったのだと言えよう。