散れども切れぬ備忘録

代数学やその他数学に関することなどをそこはかとなく書きつくる備忘録

メモ4(カルテシアン圏と双対対象)

メモです。
2021.02初旬に考察した「剛モノイダルなカルテシアン圏はどのようなものが存在するか」という問に対する答えです。



Cをカルテシアンモノイダル圏*1とし、さらに剛モノイダル圏であるとする。
対象A∈Cの双対対象をA^*と表すことにする。

よく知られた定理*2「剛ならば閉」から、-×A^*Hom(A,-)は(自然同型を除いて)一致する。
したがって、特に1×A^*≅A^*≅Hom(A,1)≅1が成り立つ。
つまり、どんな対象も その双対対象は終対象である。

さて、A∈Cの評価射e_A\colon A^*×A→1と余評価射c_A\colon 1→A×A^*を考える。
評価射は射A→1と同じであり、これは1が終対象であることから生える唯一の射である。
余評価射は射1→Aと同じであり、これは同型Hom(1,A)≅A*3を通じて Aの"元"と対応する。

これらを念頭に置いた上で三角等式を見てみよう。
三角等式は
(id_A×e_A)(c_A×id_A)=id_A
(e_A×id_{A^*})(id_{A^*}×c_A)=id_{A^*}
である。

ここに元a∈Aを代入して①がどのような条件であるのか確かめたいところだが、一般の圏の対象には元があるとは限らないので、元a∈Aの代わりに射a\colon 1→Aを取り、これを"元"と看做すこととし、これを①に合成する。
②については射をそのまま取れるから、それを代入することにする。

すなわち、a\colon 1→A,f\colon A→1として
①'(id_A×e_A)(c_A×id_A)(id_1×a)=id_A(a)
②'(e_A×id_{A^*})(id_{A^*}×c_A)(f×id_1)=id_{A^*}(f)
を考察する。

①'は(f×g)(f'×g')=(ff')×(gg')を用いれば
c_A×e_A(a)=aと書ける。
e_Aは唯一の射であったから無視すると、
これは「任意の対象A∈Cに対して"元"c∈Aが存在して、任意の元a∈Aに対してc=aである」と言っていることになる。
つまりA=\{c \}=1ということを言っている。
②'も同様に
e_A(f)×c_A=fと書ける。
これについては要するにA^*=1ということを言っており、これは既に見た通りである。
A=1なのだから、これはA^*=Hom(A,1)≅Hom(1,1)≅1=\{id_1\} ということを言っている。

以上のことから、剛モノイダルなカルテシアンモノイダル圏は単位圏1*4しか有り得ないということがわかる。

*1:有限直積を持ち、それをモノイダル積とするモノイダル圏

*2: https://zangiri.hatenablog.jp/entry/2020/05/31/063027 を見よ。

*3:これはモノイダル閉圏なら成り立つ同型である。

*4:対象は1のみで射はid_1のみの圏。これはCatの終対象(したがって単位対象)でもある。