散れども切れぬ備忘録

代数学やその他数学に関することなどをそこはかとなく書きつくる備忘録

メモ7(群環の上の加群と群の表現の対応)

3/8に考えたことのメモです。

以前書いた『淡中再構成(環上の加群)』という記事*1において、「何故 群環/多元環/リー環 の表現は その上の加群を考えるのか」という問いを掲げ、その答えとして「環上の加群の淡中双対があるから」を提示しました。
しかし、「群の表現と群環の上の加群、或いは リー環の表現と普遍包絡環の上の加群は 何故対応するのか」という点については説明できていませんでした。今回の記事ではこれを説明します。



Vをモノイダル閉圏とし、その上のモノイド対象の成す圏をMonVとする。
また、Cを圏とし、Xをその対象とする。

[補題]
モノイダル閉圏Vの対象A,Mを取り、特にAをモノイド対象とする。
このとき、次の2つは同値である:
(1) 射ρ\colon A⊗M→Mがあり、(M,ρ)A-加群となる。
(2) 射f\colon A→Hom_V(M,M)=EndMがあり、これがモノイド準同型である。

[証明]
テンソルホム随伴( -⊗X\dashv Hom(X,-) )の
単位をev^X\colon Hom(X,-)⊗X⇒Id_V
余単位をcoev^X\colon Id_V⇒Hom(X,-⊗X) とする。
(1)⇒(2)はf=Hom(M,ρ)\circ coev^M_Aとし
(2)⇒(1)はρ=ev^M_M\circ (f⊗M) とすればよい。
これは噛み砕いて言えばf(a)=ρ(a,-)とするのと同じである。 ■

この補題によって、加群の構造射と(適当な)モノイド準同型は等価であることがわかった。


さて、関手U\colon MonV→Cがあり、これが左随伴F\colon C→MonVを持つとする。

対象X∈Cを取れ。
MF(X)上の加群とすると、Mは構造射(に対応するモノイド準同型)F(X)→EndM in MonVを備える。
ここで、随伴があるから
Hom_{MonV}(F(X),End(M) )≅Hom_C(X,U(End(M) ) )が成り立つので、
これは射X→U(End(M) ) in Cに対応する。


(例1)
Cを群の圏GrpVをベクトル空間の圏Vectとせよ。MonV多元環の圏Algとなる。
このとき、U\colon Alg→Grp多元環の乗法群(単元群)を取る操作、F\colon Grp→Algは群環を取る操作で与えられる。
上の議論から、群環上の加群F(X)⊗M→Mと群の表現X→単元群(自己準同型モノイド(M) )=自己同型群(M)=GL(M)が対応することがわかる。

(例2)
Cリー環の圏LieV=Vectとせよ。
U\colon Alg→Lie多元環からリー環を標準的に作る操作、F\colon Lie→Algは普遍包絡環を取る操作で与えられる。
上の議論から、リー環の普遍包絡環の上の加群リー環の表現が対応することがわかる。

(例3)
Cを(有限)集合の圏SetVを(有限次元)k-ベクトル空間の圏Vect_kとせよ。
U\colon Alg_k→Setは忘却、F\colon Set→Alg_kは非可換多項式環(自由多元環)を取る操作*2で与えられる。
上の議論から、多項式環F(X)=k [ X ] 上の加群写像X→EndM=M_n(k)が対応することがわかる。

*1: https://zangiri.hatenablog.jp/entry/2020/09/22/234153

*2:或いは、集合から自由モノイドを作りそのモノイド環を取る操作、自由加群を作りそのテンソル代数を取る操作 と言ってもいい