散れども切れぬ備忘録

代数学やその他数学に関することなどをそこはかとなく書きつくる備忘録

メモ3(自己準同型モノイド)

メモです。
2021.1.27に考察した「自己準同型を集めるとモノイドになるが、これは豊穣圏でも成立するか?」という問題に対する答えをまとめておきます。



Vをモノイダル圏、CV-豊穣圏とせよ。
V-豊穣圏Cには、
Hom集合Hom_C(a,b)にあたるものとして C(a,b)∈V
射の合成にあたるものとして m_{abc}\colon C(b,c)⊗_VC(a,b)→C(a,c)
恒等射(を取ってくる射)にあたるものとして j_a\colon 1_V→C(a,a)
が定まっており、これらは結合律と単位律を満たすのであった。
このことから 以下の定理がわかる :

[定理]
V-豊穣圏Cの対象Xについて、
End_C(X)=C(X,X)Vのモノイド対象になる。
なお、乗法はm_{XXX}\colon C(X,X)⊗_VC(X,X)→C(X,X)で与えられ、
単位はj_X\colon 1_V→C(X,X)で与えられる。

例1)
集合の圏Setを考えよ。
これはモノイダル閉だから自己豊穣、したがってSetSet-豊穣圏である。
故に、集合Xの自己写像全体End(X)を考えると、これは合成を乗法としてモノイドになる。

例2)
アーベル群の圏Abを考えよ。
これはモノイダル閉だから、AbAb-豊穣圏である。
故に、アーベル群Mの自己準同型環End(M)は単位的環となる。
これと全く同じことがR-加群の圏に於いても言える。

例3)
Vを完備かつモノイダル閉であるとし、V-豊穣圏C,Dを取れ。
このとき関手圏[C,D] V-豊穣圏である。
V-関手F\colon C→Dを取り、End(F)=∫_{c∈C}D(Fc,Fc) を考えると、これはVのモノイド対象である。
特に、前層F\colon C→Vに対するEnd(F)Vのモノイド対象となる。

(Remark!)
この例に於いてV=Abとすると、『淡中再構成(環上の加群)』 https://zangiri.hatenablog.jp/entry/2020/09/22/234153 と内容が一致する。

例4)
Vを完備かつモノイダル閉とし、V-豊穣圏の成す圏V-Catを考えよ。
このときV-Catはモノイダル閉であり、したがってV-Cat-豊穣圏となる。
V-豊穣圏Cに対してEnd(C)V-Catのモノイド対象、つまりV-豊穣モノイダル圏になる。
これはV=Setとすれば、「自己関手の圏はモノイダル圏になる」と言っているのと同じである。


【追記】

以上では「自己準同型はモノイドを成す」を示したが、この逆「モノイドは自己準同型から与えられる」も示すことができる。
すなわち、 Vをモノイダル圏とし A∈Vをそのモノイド対象とせよ。このとき、次のような V豊穣圏 \mathbb{B}Aを構成することができる*1 :
対象は唯一つであり(これを *_Aと書く)、射集合は\mathbb{B}A(*_A,*_A)≅A によって与えられる。射の合成がモノイド対象の乗法に、恒等射(を取る射)がモノイド対象の単位に対応している。
この状況に於いて、定義から明らかにモノイド対象 A V豊穣圏 \mathbb{B}A内の自己準同型モノイドとして表されている。
つまり、「全てのモノイド対象は自己準同型モノイドとして表される」ということが言える。

また、この議論によって「 Vのモノイド対象と一点*2 V豊穣圏は等価である」ということも言える。
例えば、一点圏はモノイドであり、逆もまた然り。

*1: このようにして構成された \mathbb{B}AA のdeloopingと呼ぶことがある。

*2:対象が唯一つの圏を一点圏と呼ぶ。