メモです。
散切が予てより予想している「モノイドの圏と加群の圏の圏は反変圏同値」という定理の前加法圏ベースの証明を与える……ブログ記事になるはずですが、完成する目処があまりにも立たないので、一旦下書きと称して途中までを公開します。
したがって、公開されたり非公開になったり…を繰り返す可能性があることに留意してください。
環と加群、およびそれらの成す圏
前加法圏とは、圏であって、そのホム集合がアーベル群であり、射の合成に対して双線形なものをいう。
これは、アーベル群の成す圏をAbと書けば、Abー豊穣圏とおなじことである。
ただ一つの対象から成る圏を一点圏と呼ぶ。
一点前加法圏を単位的環、或いは単に環と呼ぶ(ここでは環と呼ぶことにする)。
射の合成が環の乗法に、恒等射が単位元に、合成の双線形性が分配法則に対応する。
環(一点前加法圏)のホム集合がと表されるとき、その環を
と表し、その唯一の対象を
或いは単に
と表す。
を前加法圏、
を関手とする。
が前加法関手であるとは、
の各対象
に対して、写像
がアーベル群準同型であることをいう。
環と前加法関手の成す圏をと表す。*1
の射を環準同型という。
前加法関手を左
加群、或いは単に
加群と呼ぶ。
をR‐加群とする。
このとき、がMの台集合に対応し、
アーベル群準同型が構造射
に対応する。
R‐加群を正則R‐加群或いは単に正則加群と呼ぶ。
正則加群の構造射のアンカリー化
はRの乗法に一致する。*2
を前加法圏とし、
を前加法関手とする。
前加法関手間の自然変換を前加法自然変換と呼ぶ。
前加法自然変換はただの前加法関手間の自然変換であるから、単に自然変換と呼ぶこともある。
前加法自然変換には和が定義できる:
前加法自然変換に対して、
点毎に和を定めとすればよい。
前加法自然変換の和はまた前加法自然変換になり、
さらに前加法自然変換全体の集合
はアーベル群となる。
アーベル群の和は自然変換の(垂直)合成に対して双線型であり、よって関手圏
は前加法圏となる。
このような関手圏を前加法関手圏と呼び、或いは
と表す。
をR‐加群とする。
自然変換をR‐加群準同型と呼ぶ。
その唯一の成分はアーベル群準同型であり、
これは自然変換の定義からを取ると
となる。
R‐加群とR-加群準同型の成す圏をと表す。(
である。)
は自然変換の和を成分毎の和で定めれば前加法圏となる。
関手を
と定めると、これは前加法関手になる。
この前加法関手を忘却関手と呼ぶ。
今後、単に加群の圏と言えば、組を指すものとし、
についてはR-加群の”成す”圏と呼び、これを区別する。
加群の圏の圏を以下のように定義する:
その対象は加群の圏であり、
その射は前加法関手であり、
忘却関手と可換である(を満たす)ものとする。*3
この記事では、冒頭に述べたように、環の圏と加群の圏の圏が反変圏同値であることを示すことを目標とする。
前加法圏における米田の補題
これからの準備として米田の補題の前加法圏版を証明しておく。
ただし、ここでは米田の補題(を含む、一般的な圏論)は既知とし、必要に応じて前加法性だけを確かめるものとする。
まずホム関手を定義する。
前加法圏とその対象
に対して、前加法関手
を以下のように定義する:
対象:各に対して
射:各Cの射に対して
とする。
ただし、各Cの射に対して
このようにして定めた前加法関手を前加法ホム関手或いは単にホム関手と呼び、
と表す。
或る前加法関手が或る
を以て
となるとき、
前加法関手Fは(aで)表現可能であるといい、斯様なaをFの表現対象という。
さて、前加法圏における米田の補題は次のようになる:
前加法圏Cとその対象と前加法関手
に対して、以下の同型が自然に成り立つ:
ただし、は圏Abにおける同型、すなわちアーベル群としての同型を表す。
[略証]
まず、同型を構成する:
自然変換に対して、
とし、
に対して、
とする。
これらが互いに逆になる(したがって同型になる)ことは計算すれば分かる*4。
次にこれらがアーベル群準同型になるか、つまり加法性を持つか確かめる。
と言っても、前加法自然変換の和は点毎の和であること、アーベル群準同型の和は点毎の和であること、がアーベル群準同型であることなどから、計算すればすぐに分かる。
□
淡中の補題
ここで、今後有用となる定理を1つ紹介しておく。
この定理(或いはこの定理に同値な命題)は「淡中の補題」と呼ばれるが、これは基本的にはこのブログ記事内のみでの呼称であることに留意されたい。
[定理](淡中の補題)
忘却関手は正則加群で表現可能である。
すなわち、
自然な同型
および
アーベル群としての同型
が成り立つ。
[略証]
前加法米田からただちに従う。
□
淡中再構成
もう1つ有用な定理を示しておく。
こちらは先の補題とは違い、世界的にも淡中再構成定理(Tannaka Reconstruction Theorem)と呼ばれている(定理群のうち、最も簡単な)ものである。
以下に証明を記すが、実質的に過去の記事*5と内容が被るので、ここでは略証を記すに留める。
[定理](淡中再構成)
環としての同型
が成り立つ。
[略証]
まずアーベル群としての同型を示す。
淡中の補題と米田の補題から、
となり、これらの同型は全てアーベル群としての同型だからよい。
元を取りこの同型を辿れば乗法も上手く定まることが分かる*6。
よって環としても同型になる。
□
淡中随伴
ここからの内容はメモ8( https://zangiri.hatenablog.jp/entry/2021/05/15/003551 )と被るが、この後に必要となるため、また内容が少しズレている*7ため、ブラッシュアップも兼ねてここに書き直す。
まず、反変随伴の復習をする。
ここまで2026.01.09の更新。
関手の構成
自然変換の構成
随伴性
余単位は同型⇒右随伴は充満忠実
示唆と実証
主定理
『環の圏と加群の圏の圏は反変圏同値』
なぜ加群なのか
この先にある概念と定理
それらが示唆するもの、もたらすもの
さらに先へ(みんなが知っていること、知らないこと)
(『』の内容と項目のみの部分については近日加筆予定)
*1:Ringは前加法圏ではない。零環から零環以外への環準同型は存在せず、したがってそのようなホム集合は常に空であり、群になることはない。
*2:逆に、乗法(のアンカリー化)が構造射を定めるような加群を正則加群として定義することも多い。
*3:これは、前加法圏の成す圏をと書くことにすれば、
を
の
上のスライス圏
の充満部分圏であり加群の成す圏からなるもの として定義するのと同じことである。
*5: 前加法圏ベースではなく、モノイダル圏とその上のモノイド対象・加群対象をベースにしているが、ほぼ同じ証明となる。 https://zangiri.hatenablog.jp/entry/2020/09/22/234153#%E7%92%B0%E3%81%AE%E6%B7%A1%E4%B8%AD%E5%86%8D%E6%A7%8B%E6%88%90
*6:実際に元を取り、同型を式の下から追ってみる。最下段から1つ上段に行くと”rを右から掛ける加群準同型
”=r倍作用となる。さらに上段に行くと”r倍作用を右から合成する操作
が成分になるような自然変換”となる。この逆は、米田の補題から
を2回繰り返せばよい。これによって乗法が定まり、準同型やその合成はすべて双線型だから、件の同型は環同型になる。
*7:メモ8はV豊穣圏がベースだが、この記事は前加法圏ベースである。また、"加群の圏の圏"と呼ぶべき圏についても条件・内容が異なる。