散れども切れぬ備忘録

代数学やその他数学に関することなどをそこはかとなく書きつくる備忘録

メモ2(中心の普遍性)

メモです。
2021.1.08に発見した「中心の普遍性」についてメモしておきます。



以下Vを(対称閉)モノイダル圏とし、Aをそのモノイド対象とする。
Z∈Vが以下を満たすとき、これをAの中心と呼びZ(A)と表す。:
Vの射i\colon Z→Aがある。
iは任意のa∈A,z∈Zに対してa*i(z)=i(z)*aを満たす。*1
X∈Vと射f\colon X→Aがあり、これらが②を満たすとき、射φ\colon X→Zが一意に存在してiφ=fを満たす。

②を中心の可換性と呼び、③を中心の普遍性と呼ぶ。
中心は普遍性を持つから、存在すれば同型を除いて一意である。

例1)
Rを単位的環とする。すなわち、モノイダル圏(Ab,⊗_Z,Z)のモノイド対象とする。
Z(R)=\{z∈R\colon \forall r∈R,zr=rz\}とせよ。
これは環の中心と呼ばれるものであるが、可換性と普遍性を持つから先の「中心」と一致する。
つまり、環の中心は「中心」である。
「中心」はただのアーベル群として定まるから、これがRの部分環となるのは(少なくとも筆者にとっては)非自明なことである。
【追記】
この問題は既に解決された。メモ6 https://zangiri.hatenablog.jp/entry/2021/02/21/110954 を見よ。

この「中心」は、Vが完備ならば必ず存在する。
[証明]
モノイド対象AのdeloopingをBAとする。すなわち、BAは一点V-豊穣圏であり、Hom_{BA}(*,*)≅AVのモノイド対象として成り立つ。
Vが完備(かつ対称閉)モノイダルでCV-豊穣圏なら、関手T\colon C^{op}⊗C→Vに対してエンド∫_{x∈C}T(x,x)が存在する」という定理を認めれば、エンド∫_{*∈BA}Hom_{BA}(*,*)は必ず存在する。
これは定義からAに対する可換性と普遍性を持つからAの「中心」である。 ■

例2)
Set,Ab,Vect_kなどは完備モノイダルだから、そのモノイド対象(モノイド、単位的環、k-多元環)には必ず中心が存在する。

(発展)
Vとして圏の圏Catを取れ。
この時モノイド対象はモノイダル圏に他ならないが、その「中心」とmonoidal center,Drinfeld centerと呼ばれる概念は一致する。
このことから、豊穣モノイダル圏の中心も同様に定義できることが推測される。

*1:より正確には、 Vを対称モノイダル圏で対称子を twとし、 Aの乗法を mとし、" m∘(A⊗i)=m∘tw∘(A⊗i)"を課すべきである。