散れども切れぬ備忘録

代数学やその他数学に関することなどをそこはかとなく書きつくる備忘録

九大の院試(代数学)を解いた

題名の通りです。九大の院試の過去問を 代数学を中心に解いてみましたので公開します。元の問題はこちら( https://www.math.kyushu-u.ac.jp/entryexams/view/6 )から見ることができます。

※間違い等ありましたらお教え下ると助かります。

2020年度専門科目

[1]

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(以下解答)
(1)
部分群であることを示すためには①全域性②単位元の存在③逆元の存在 を示せばよいです。順に見ていきます。
①)
g,h∈N_G(T)としてgh∈N_G(T)を示します。
g^{-1}Tg=T,h^{-1}Th=Tなので、
(gh)^{-1}Tgh=h^{-1}g^{-1}Tgh=h^{-1}Th=Tとなり、gh∈N_G(T)がわかります。
②)
e単位元とするとe^{-1}Te=Tが成り立つのでe∈N_G(T)です。
③)
g^{-1}∈N_G(T)を示します。
N_G(T)=\{g∈G|g^{-1}Tg=T\}
=\{g∈G|Tg=gT\}なので、
Tg^{-1}=g^{-1}Tを示せばよいですが、これはgT=Tgから成り立ちます。 ■

(2)
まずTN_G(T)の部分群であることを示します。と言っても、対角行列の積・逆元はまた対角行列なので明らかです。
次に∀g∈N_G(T),g^{-1}Tg=Tを示せばよいですが、N_G(T)の定義から成り立つことがすぐにわかります。 ■

(3)
まずT=\{\begin{pmatrix}x&0\\0&y\end{pmatrix}|x,y∈ℝ,xy≠0\}です。
次にN_G(T)を見てみましょう。
\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}∈N_G(T)とすると、
これはad-bc≠0と以下を満たします:
\displaystyle \begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}^{-1}\begin{pmatrix}x&0\\0&y\end{pmatrix}\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}=\frac{1}{ad-bc}\begin{pmatrix}adx-bcy&(x-y)bd\\(y-x)ac&adx-bcy\end{pmatrix}
この右辺が対角行列になり、更にx,yは任意なので、
\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}∈N_G(T)ac=0∧bd=0を満たします。
ところが、先述したようにad-bc≠0なので、これを考慮すると
a=d=0∧b≠0≠c」または「b=c=0∧a≠0≠d」となり、結局以下の形に限られることがわかります:
\begin{pmatrix}a&0\\0&d\end{pmatrix},\begin{pmatrix}0&b\\c&0\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}\begin{pmatrix}c&0\\0&b\end{pmatrix}
したがって、N_G(T)/T=\{T,\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}T\}となり、これは位数2の群なので2次の巡回群C_2に同型です。 ■

[3]

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(以下解答)
(1)
計算するとf(x+1)=(x+1)^p-(x+1)-1=f(x)が分かるので、帰納的にα+1,...,α+p-1f(x)の解になります。 ■


(2)
f(x)が可約、つまりf(x)=g(x)h(x)となるg(x),h(x)∈F[x] があったとします。
このとき、g(x)
\prod^n_{k=1}(x-(α+m_k) )\ \ (1≦n≦p-1,m_k∈Fで各m_kは相異なる)
と表されます(なぜなら、f(x)微分するとpx^{p-1}-1=-1となり、f(x)との共通根を持たないため、f(x)が分離的だからです)。g(x)n-1次の項の係数は-nα-Σm_kですが、これはFに属する(g(x)∈F[x] なので)のでα∈Fとなります。したがって、f(x)が可約ならその根は全てFの元です。 ■

(3)
ℤからFへ自然な準同型π\colon ℤ→Fが生えます。このπから誘導される準同型ℤ[x]→F[x] \tilde{π}と書きます。
f(x)ℤ[x] 上可約だと仮定して矛盾を導きます。仮定から\tilde{π}(f(x) )は可約ですが、このとき(2)からf(x)=x\prod (x-m)となります。しかし、両辺の定数項が一致しないので矛盾です。
したがって、f(x)ℤ[x] 上既約です。 ■

2019年度専門科目

[3]

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(以下解答)
(1)
f(x)が可約であったとします。f(x)は4次多項式なので、①1次×3次か②2次×2次の形に分解されます。
①の形に分解されたと仮定します。
このとき1次の因子は(x-a),a∈F_2と書けるのでf(x)F_2上に根を持ちますが、f(0)≠0≠f(1)なのでこれは矛盾です。
②の形に分解されたと仮定します。
f(x)=(x^2+ax+b)(x^2+cx+d)とすると
係数を比較してa+c=1,bd=1,b+d+ac=1が全て同時に成り立ちます。後ろの2つからa=b=c=d=1が従いますが、これはa+c=1に矛盾します。

以上よりf(x)F_2[x] 上既約です。 ■

(2)
準同型定理から、Imφ=K,Kerφ=(f(x) )となる環準同型φ\colon F_2[x]→Kを構成すればよいです。実際φ(x)=θとしこれをF_2[x] 上に延長すると条件を満たすことがわかります。
次に拡大次数[K\colon F_2] ですが、これはK=F_2(θ)よりθF_2上の最小多項式f(x)の次数に等しいです。つまり[K\colon F_2] =4です。 ■

(3)
まず準同型であることを示します。
が、和・積・単位元を保つことは計算すればすぐにわかるので略します。
次に同型であることを示します。
KF_2上の基底として1,θ,θ^2,θ^3が取れますが、これがσによってどう写るか見てみましょう。
計算すると各々1,θ^2,θ^4=θ^3+θ^2+θ+1,θ^6=θ^2・θ^4=θに写ることがわかります。
これはまたKF_2上の基底となるので、σ全単射、したがって同型です。 ■

(4)
K=F_2(θ)σF_2の元を変えないので、θの写り先だけ見れば充分です。先の議論から
σ(θ)=θ^2
σ^2(θ)=θ^4
σ^3(θ)=θ^8=θ^2・θ^6=θ^3
σ^4(θ)=θ^6=θがわかります。
θ^2,θ^3,θ^4が全てθと異なるので、、σの位数は4です。
また、K上の自己同型はf(x)の根をf(x)の根に写さなければなりませんが、先の議論からid,σ,σ^2,σ^3で尽くされることがわかります。よって求める自己同型群は4次の巡回群C_4です。 ■

2018年度専門科目

[3]

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(以下解答)
(1)
もしx^2+1が可約だとすると、1次式の積に分解されます。したがってF_3上に根を持つはずですが、計算してみると0,1,2は根にならないので矛盾します。よってx^2+1F_3上既約です。 ■

(2)
α^2+1=0に気を付けると、
α=(α-1)+1なので( (α-1)+1)^2+1=0となります。
よって(α-1)^2+2(α-1)+2=0なのでα-1x^2+2x+2=x^2-x-1の根です。この多項式F_3上に根を持たないので既約で、したがってα-1F_3上の最小多項式になります。
同様にしてx^2+x-1α+1の最小多項式になることも分かります。 ■

(3)
(x^2-x-1)(x^2+x-1)=x^4+1なので、
x^9-xF_3上で
x^9-x=x(x^2-x-1)(x^2+x-1)(x^2+1)(x+1)(x-1)と分解されます。この多項式の根は全てF_3(α)の元です。つまりK⊂F_3(α)ですが、拡大次数の関係からF_3(α)⊂Kもわかります。よってK=F_3(α)です。 ■