カルテシアン圏上の余代数
余代数について調べていた所、「(もっと一般にカルテシアン圏)上の余代数構造は一意に定まる」という文を見つけました。「ほんまか?」と思い色々考えていたのですが、どうやら簡単に示せるようなので、備忘録も兼ねてブログにします。
前提知識は圏論の初歩(圏・関手・自然変換の定義・性質等)です。
さて、まずモノイダル圏を定義します。
[定義]
が以下を満たすとき、この組(或いは単に)をモノイダル圏と呼びます:
・は圏。(基礎圏と呼びます。)
・は(双)関手。(モノイダル積と呼びます。)
・は自然同型。(結合子と呼びます。)
・はの対象。(単位対象と呼びます。)
・とは自然同型。(左単位、右単位と呼びます。)
・次の図式*1が可換。(五角公理と呼びます。):
・次の図式*2が可換。(三角公理と呼びます。):
五角公理と三角公理が比較的謎な概念だと思いますが、実は結構自然なんですよ。というのも、マックレーンの連接定理という定理があって、五角公理と三角公理を満たす(連接である と言ったりもします)ならの結合を自由に入れ替えたりを入れたり抜いたりしてよいことが保証されるのです。(詳しくは『圏論の基礎』をご覧下さい。)
例)集合の圏は 通常の直積×をモノイダル積としてモノイダル圏になります。また、環上の加群の圏はテンソル積⊗︎をモノイダル積としてモノイダル圏になります。
モノイダル圏があると、その上の余代数(余モノイド対象とも言います)が定義できます。
[定義]
を先述したセッティングの下、モノイダル圏とします。が以下を満たすとき、この組(或いは単に)を上の余代数と呼びます:
・はの対象。
・はの射で次の図式を可換にする:
(をの余積と呼びます。)
・はの射で次の図式を可換にする:
(をの余単位と呼びます。)
次に(圏論的)直積を定義します。
[定義]
を有限離散圏(対象が有限個で、射は恒等射のみの圏)、を関手とします。
の対象が以下を満たすとき、を上の圏論的(有限)直積(或いは単に有限直積)と呼びます:
・任意のに対し、内の射が存在する。(射影と呼びます)
・射影を持つ対象とその射影について、任意のに対してとなるような内の射が一意に存在する。(つまりと を仲介射と呼びます。)
このときをと表し、特にのときと表します。
有限直積をカルテシアン積とも呼びます。有限直積が常に存在する(有限直積を持つ)圏は自然にモノイダル圏になるので、これをカルテシアン圏やカルテシアンモノイダル圏と呼びます*3。
[証明]
カルテシアン圏がモノイダル圏となることを示しましょう。
まずモノイダル積をカルテシアン積×とし、結合子を自然な仲介射によって定めます。これらが五角公理を満たすことは直積の普遍性から明らかです。
次に終対象(が空圏のときの圏論的直積)を取りとします。を考えましょう。これは射影を持ちます。は が一点圏のときの圏論的直積と思える(射影は恒等射)ことに注意すると、仲介射が在って,となることがわかります。つまりは同型射です。これを左単位としましょう。同様にして右単位を取ると、これらが三角公理を満たすことがわかります。
以上より、カルテシアン圏は自然にモノイダル圏と看做せることがわかりました。 ■
例)は通常の直積をカルテシアン積としてカルテシアンモノイダル圏になります。終対象は一点集合です。
準備が終わりましたので本題に入ります。
次の定理を示します:
[定理]
カルテシアンモノイダル圏の対象は自然に余代数と思える。また、カルテシアンモノイダル圏の対象の余代数構造はこの自然な方法によるものしかない。
[証明]
まず対角射と呼ばれる射を定義します。を考えると、これはとへの射影を持ちますよね。同様にを(圏論的直積として)考えると、これもへの射影を持ちます。すると仲介射がただ一つ生えます。この仲介射を対角射と呼びます(からへの射は この対角射しかないわけですから、余代数構造は定まったとしても高々1つの方法によります。
後は対角射によって余代数構造が定まることを見ればよいです。とし、をが終対象であることから自然に定まる射とすると、これらが満たすべき(余代数の)図式に出てくる射は全て唯一になります。よって図式全体は可換です。つまり、は上の余代数となります。
以上より示したい定理が示せました。 ■
例)において、全ての集合は対角射とによって余代数の構造を持ちます。逆に、上の余代数は対角射とによって与えられるものに限ります。
前置きがやたら長くなってしまいましたが、主定理の証明は普遍性をぶん回すだけなのでそこまで難しくないですね。個人的には『ベーシック圏論』の演習問題になっていてもおかしくない難易度だと思いました。
対角射周辺の議論が少し怪しい気がしているので、何か致命的な間違いがあれば御指摘下さると助かります。
ここまで読んで頂き有難うございました。
【追記】
本筋には差程関係ありませんが、ここには書いてない定理として「カルテシアン圏は対称モノイダル圏」「カルテシアン閉圏はモノイダル閉圏」「カルテシアン圏の余代数は余可換」が成り立ちます。