散れども切れぬ備忘録

代数学やその他数学に関することなどをそこはかとなく書きつくる備忘録

有限群の淡中再構成(Tannaka Reconstruction)その3

今回も前回( https://zangiri.hatenablog.jp/entry/2019/10/18/202302 )、前々回( https://zangiri.hatenablog.jp/entry/2019/10/17/023930 )に続き、有限群の淡中再構成を紹介していきます。
さて、いくつかの補題と主定理の証明をします。

補題3

[補題3]
TFテンソル自然自己同型とする。
このときTT_{ℂG}(1)によって完全に決定される。
[証明]
(V,φ)を任意の表現とし、v∈Vとします。
表現の射f_v:(ℂG,ℓ)→(V,φ)f_v(g)=φ(g)(v)と定めましょう。
これが実際に表現の射になることは容易に分かります(確かめてみてください)。
また、この射は表現(V,φ)によってただ一つに定まります。
さて、下の図式を考えましょう。
(F( (ℂG,ℓ) )=ℂG,F( (V,φ) )=V,F(f_v)=f_vに気をつけてください。)
ℂG-f_v→V
↓T_{ℂG}\ \ \ \ \ \ \ \ \ \ ↓T_V
ℂG-f_v→V
これは可換なので、
f_v(T_{ℂG}(1))=T_V(f_v(1))=T_V(v)
となります。
これが任意の(V,φ),v∈Vに対して成り立つので、TT_{ℂG}(1)のみによって決まることがわかります。■

補題4

Gの元g∈Gは、群代数の余積Δに対してΔ(g)=g⊗︎gを満たします。
つまり「g∈G⇒Δ(g)=g⊗︎g」は真になります。
この命題の逆を考えてみましょう。
群代数ℂGの元vが群的元であるというのを 群代数の余積Δに対してΔ(v)=v⊗︎vが成り立つことと定義して、群的元について考察します。

[補題4]
群代数ℂGの群的元は群Gの元である。
[証明]
v=\sum_{g∈G}v_gg∈ℂGを群的元とします。
このとき
Δ(v)=v⊗︎v
=(\sum_{g∈G}v_gg)⊗︎(\sum_{g'∈G}v_g'g')
=\sum_{g∈G}\sum_{g'∈G}v_gv_g'(g⊗︎g')
となります。
一方、余積の定義から
Δ(v)=\sum_{g∈G}v_g(g⊗︎g)です。
この二つは等しいので、v_g≠0とすると
v_gv_g'=δ_{g,g'}v_g(δクロネッカーのデルタ)となり、よってv_g'=δ_{g,g'}となります。
このとき
v=\sum_{g'∈G}v_g'g'=\sum_{g'∈G}δ_{g,g'}g'=g∈Gとなります。■

補題5

[補題5]
任意のテンソル自然自己同型Tに対して、T_{ℂG}(1)は群的元である。
[証明]
Tテンソルを保つ(テンソル自然変換である)ことを使います。
下の図式を考えましょう。
ℂG-Δ→ℂG⊗︎ℂG
↓T_{ℂG}\ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ ↓T_{ℂG⊗︎ℂG}
ℂG-Δ→ℂG⊗︎ℂG
このとき
Δ(T_{ℂG}(1))
=T_{ℂG⊗︎ℂG}(Δ(1))
=T_{ℂG⊗︎ℂG}(1⊗︎1)
=(T_{ℂG}⊗︎T_{ℂG})(1⊗︎1)
=(T_{ℂG}(1))⊗︎(T_{ℂG}(1))
となるのでT_{ℂG}(1)は群的元です。■

主定理

補題が揃ったので主定理の証明をします。

[定理]
有限群Gに対し、忘却関手F:\mathrm{Rep}_G→\mathrm{Vect}_ℂテンソル自然自己同型群\mathrm{Aut}^⊗︎(F)が構成でき、
群準同型\mathcal{i}:G→\mathrm{Aut}^⊗︎(F)は同型である。
[証明]
補題1,2より\mathcal{i}単射群準同型なので、全射であることを示します。
T∈\mathrm{Aut}^⊗︎(F)としましょう。
補題3よりTT_{ℂG}(1)によって決まりますが、補題4,5よりこれはGの元です。
よってT_{ℂG}(1)=g∈Gとすると、
任意の表現(V,φ)およびv∈Vに対して
T_V(v)=f_v(g)=φ(g)(v)=T^g_V(v)となり、
したがってT=T^gとなります。
以上より\mathcal{i}全射、したがって同型です。■

今証明した定理を短くまとめると「有限群は その表現の成す圏から適当な自然自己同型群によって復元できる」となります。これは有限群以外についても成り立つことが知られており、まとめて「淡中再構成(Tannaka reconstruction)」と呼ばれています。
「淡中双対(tannaka duality)」で調べると他にも淡中再構成できる対象が見つかりますので調べてみてください。