散れども切れぬ備忘録

代数学やその他数学に関することなどをそこはかとなく書きつくる備忘録

淡中再構成(モノイド作用)

淡中双対の簡単な例(モノイド作用を使った例)を紹介します。

※この記事では米田の補題(『ベーシック圏論』第4章までの内容)は既知とします。

Terminology

以前『有限群の淡中再構成』( https://zangiri.hatenablog.jp/entry/2019/10/17/023930 )という記事を書きました。これは(有限)群の表現による淡中双対でしたが、今回は作用による淡中双対を見るので、内容が少しズレます。その分 直感的で易しくなると思います。

まずは幾つかの用語を定義します。分からない単語等があればncatlabを参照すると良いでしょう。

モノイドの圏

集合の成す圏をSetと表します。
Setは有限極限を持つのでカルテシアンモノイダル圏です。したがって、モノイド対象が定義できます:
(M,μ^M,u^M)がモノイド対象であるとは
Mは集合、μ^M\colon M×M→M,u^M\colon 1→M写像で、以下の図式を可換にすること:
f:id:zangiriontwitter:20200401194220j:plain

今回はモノイド対象をSetの上で考えるので、モノイド対象を単にモノイドと呼びます。
また、(M,μ^M,u^M)を略してMと書くことがあります。

モノイドは乗法と単位を持つので、この2つを保つものとしてモノイド射を定義できます:
f\colon M→Nがモノイド射であるとは
(M,μ^M,u^M),(N,μ^N,u^N)はモノイドで、f\colon M→M写像
f(μ^M)=μ^N(f×f),f(u^M)=u^N
の両方を満たすことです。

モノイドを対象としてモノイド射を射とすると圏を成すので、この圏をMonと表します。

今まで大仰にモノイドとその射を定義しましたが、所謂普通のモノイド・モノイド準同型を圏論の言葉に訳したに過ぎないので、よくわからなければそちらで認識して頂いて構いません。

モノイド作用の圏

モノイドが定義できたので、次はモノイドの集合への作用を定義します。

(X,ρ^X)M-集合であるとは
Xは集合で、ρ^X\colon M×X→X写像
加群律を満たす、すなわち、次の図式を可換にする:
f:id:zangiriontwitter:20200401194244j:plain
の両方を満たすことです。

M-集合はMからの作用を持つので、この作用を保つ写像としてM-集合の射が定義できます:
f\colon (X,ρ^X)→(Y,ρ^Y)がM-集合の射であるとは
f\colon X→Y写像
f(ρ^X)=ρ^Y(id_X×f)が成り立つ
の両方を満たすことです。

対象をM-集合、射をM-集合の射とすると圏を成すので、この圏をM-setと表します。

特別な作用として正則作用と呼ばれるものがあります:
M-集合として(M,ℓ)を取り、ℓ\colon M×M→MをMの乗法μ^Mで定めるものです。

前層圏と米田の補題

Cに対して、関手圏Func(C,Set)=[C,Set]=Set^Cは圏になります。これを圏Cの前層圏と呼び、\hat{C}と表します。

前層圏の元F\colon C→SetCの対象Xを用いてF≅Hom_C(X,-)と表されるとき、Fは表現可能であると言います。

Cの対象XHom_C(X,-)に対応させる関手を米田埋込みと言い、この対応から定まる関手をY\colon C→\hat{C}と表します。

米田埋込みについて、以下の定理が成り立ちます:
[定理](米田の補題)
Hom_{\hat{C}}(Ya,Yb)≅Hom_C(a,b)
なお、この同型は 対応θ⟼θ_a(id_a),Y_f↤fで与えられる。

Lemma

忘却関手F\colon M-set→Setを(M-setの)ファイバーと呼びます。ファイバーについて以下の定理(補題)が成り立ちます。

[補題]
ファイバーFは表現可能です。
特に、F≅Hom_{M-set}( (M,ℓ),-)です。
[証明]
以後Hom_{M-set}( (M,ℓ),-)を略してHom(M,-)と書くことにします。
Hom(M,X)≅XHom(M,f)=fを示せばよいです。
①)
同型を与える写像φ^X\colon Hom(M,X)→Xを構成すればよいです。
実際、φ^X(f)=f(e)(=f(u(*) ) )とするとこれは全単射になります*1 *2
②)
Hom(M,f)=f∘-ですが、g∈Hom(M,X)x=g(e)∈Xが対応することを考えれば、fg↔f(g(e) )という対応によりf=Hom(M,f)となります。 ■

Main Theorem

ファイバーFの自己自然変換の成すモノイド*3Hom_{\hat{M-set}}(F,F)=Nat(F,F)EndFと表します。
このEndFについて、以下の定理が成り立ちます:
[定理1]
EndFMは集合として自然に同型。
[証明]
先の補題と米田の補題から
EndF
=Nat(F,F)
=Nat(Hom(M,-),Hom(M,-) )
≅Hom(M,M)
≅M

さらに、モノイドとしても同型であることがわかります:
[定理2]
EndFMはモノイドとして同型。
[証明]
まずEndFに自然に積が入ってモノイドになることを示します。
補題の証明の①からM≅Hom(M,M)であり、この同型がL\colon m⟼μ^M(m,-)=m・-で与えられることが分かります。
また、定理1の証明と米田の補題からHom(M,M)≅EndFであり、この同型がY\colon f⟼Y_fで与えられることが分かります。
この2つの対応を合成してY_L\colon m⟼Y_{m・-}を考えると、これが積を与えモノイドを成すことが分かります。
またこのY_Lモノイド準同型であることもすぐにわかり、したがってモノイド同型を与えることもわかります。■

これはつまり、
モノイドについて調べたい時は それが作用する集合(言わば「表現」)を見れば充分であり、またそこから得られた性質はファイバーとその圏論的性質から復元できるということです。
この モノイド~表現 の対応のことを淡中双対といいます。今回の場合は「モノイドとモノイド作用付集合は淡中双対」という言い方ができます。
ふつう淡中双対と言うと「局所コンパクト群とその表現は淡中双対」というのを指すことが多いですが、今回のような身近で簡単な例にも淡中双対が現れます。

少し踏み込んで、次の系を紹介します。

[系]
定理2において、特にMが群Gであるとき、G≅EndF=AutFが成り立ちます。

この系は「代数群(代数多様体の圏の群対象)とその表現は淡中双対」というよく知られた定理と全く同じ形*4をしています。
この代数群の表現の圏は淡中圏と呼ばれており、代数学圏論に限らず 色んな分野で活躍している概念です。

ncatlabで「Tannaka duality」等と調べると さらに踏み込んだ話や参考文献が出てきますので是非ご覧下さい。

最後まで読んで頂き有難うございました。

*1:全射性:g_x(a)=ρ^X(a,x)とするとこれはM-集合の射で、特にHom(M,X)の元になる。このときg_x(e)=xなのでよい。

*2:単射性:φ^Xf=φ^Xf'とするとf(e)=f'(e)となる。ここでfはM-集合の射なのでf(m)=ρ^X(m,f(e) )=ρ^X(m,f'(e) )=f'(m)となるのでf=f'、したがって単射

*3:積は合成で与えられる

*4:同じなのは形だけであって、モノイドの議論を代数群の議論に持ち上げれば良いわけではないことに注意せよ。