散れども切れぬ備忘録

代数学やその他数学に関することなどをそこはかとなく書きつくる備忘録

フィルター空間

フィルター空間と呼ばれる「空間」に関する議論の紹介・覚え書きです。何か致命的な間違いがあれば教えて下さると助かります。

フィルターとフィルター空間

フィルター

集合Xと空でない℘X*1の部分集合F∈℘℘Xについて、
F
①フィルター基である⇔∀A,B∈F,∃C∈F,C⊂A∩B
②フィルターである
⇔①かつ∀A∈F,A⊂B⊂X⇒B∈F
③固有フィルターである
⇔①②かつ∅∉F
※フィルターに対しては ②と②':A∩B∈Fは同値

フィルター基βに対して[β]\colon =\{ A⊂X;∃B∈β,B⊂A\} はフィルターになる。これをフィルター基βから生成されるフィルターと呼ぶ。特にx∈Xに対して\{\{x\}\}はフィルター基になるので[\{\{x\}\}] [x] と表す。これは点フィルター、主フィルター、単項フィルター等と呼ばれる(ここでは点フィルターと呼ぶ)。同様にA⊂Xについても[\{A\}] はフィルターになる(ここではこれを単項フィルターと呼ぶ)。

集合X上の固有フィルター全体の集合をΦXと表す。ΦXにおける(包含に関する)極大元を極大フィルターと呼ぶ。点フィルターは極大フィルターになる(ZFC)ので主極大フィルター等と呼ばれることがある(が、ここでは単に点フィルターと呼ぶ)。

フィルター空間

集合X,Yに対して、関係r\colon X→Yとはr⊂X×Yのことである。詳しくはWikipedia等を見よ。

集合Xと関係↘\colon ΦX→Xの組(X,↘)がフィルター空間であるとは、以下を満たすことを言う:
∀F,F'∈ΦX,F↘xカツF⊂F'⇒F'↘x
∀x∈X,[x]↘x

◎は「↘は収束構造を定める」と言われることもある。
また、◎はLimF=\{x∈X;F↘x\}とすれば
F⊂F'⇒LimF⊂LimF'とも書ける。
Conv(X)=\{x∈X;∃F∈ΦX,F↘x\}とすれば
①はConvX=Xとも書ける。

写像f\colon X→X'X上のフィルターFに対して f(F)X'上のフィルター基になる。[f(F)] f[F] と表し像フィルターと呼ぶ。

写像f\colon (X,↘)→(X',↘')連続写像であるとは以下を満たすこと:
F↘x⇒f[F]↘'f(x)

フィルター空間を対象とし連続写像を射とする圏が得られる。これをフィルター空間の圏と呼びFilと表す。

この圏はカルテシアン閉であり、「良い空間の圏」として知られている。

フィルター空間の性質

以下(X,↘)をフィルター空間とし、
A,Bを台集合Xの部分集合とする。

フィルター空間の開核・閉包

\mathrm{Int}(A)=\{x∈A;F↘x⇒A∈F\}
\mathrm{Cl}(A)=\{x∈X;∃F∈ΦX,A∈F\ and\  F↘x\}
とし、それぞれAの開核・閉包と呼ぶ。

開核・閉包に対して以下の公式が成り立つ:
[Thm. 1.]
(1)X-\mathrm{Int}(A)=\mathrm{Cl}(X-A),X-\mathrm{Cl}(A)=\mathrm{Int}(X-A)
(2)\mathrm{Int}(∅)=X-Conv(X),\mathrm{Cl}(X)=Conv(X)
(3)\mathrm{Int}(X)=X,\mathrm{Cl}(∅)=∅
(4)Int,Clは包含(による順序)を保つ。

(X,↘)が◎を満たすとき、前節の①はA⊂\mathrm{Cl}(A)に同値である。
さらにこれがフィルター空間である(◎と①を満たす)なら、以下も成り立つ:
[Cor. 1.]
(1)\mathrm{Int}(∅)=∅,\mathrm{Cl}(X)=X
(2)\mathrm{Int}(A∩B)=\mathrm{Int}(A)∩\mathrm{Int}(B),\mathrm{Cl}(A∪B)=\mathrm{Cl}(A)∪\mathrm{Cl}(B)

開集合・閉集合

A
開集合⇔A=\mathrm{Int}(A)
閉集合A=\mathrm{Cl}(A)

次が成り立つ:
[Thm.2.]
(1)∅,X\colon clopen
(2)O_λ\colon open⇒\bigcup_{λ∈Λ}O_λ\colon open
(3)C_λ\colon close⇒\bigcap_{λ∈Λ}C_λ\colon close

分離性

位相空間に対する分離公理はフィルター空間に対しても定義され、またこの二つは一致することが知られている。以下に定義を記す(量化子や記号の説明は適宜省略するので察してほしい。):
T_0\colon [x]↘y∧[y]↘x⇒x=y
T_1\colon [x]↘y⇒x=y
reciprocal \colon x,y∈LimF⇒\{G|G↘x\}=\{G'|G'↘y\}
Hausdorff \colon x,y∈LimF⇒x=y
T_2 \colon F↘x,G↘y,x≠y⇒F∩G=∅
Urysohn \colon F↘x,G↘y,x≠y⇒Cl(F)∩Cl(G)=∅

フィルター空間に対しては
T_2⇔Hausdorff⇔T_0∧reciprocal
が成り立つ。

また、フィルター空間がコンパクトであるとは 任意のフィルターが極限を持つことである。
したがって、フィルター空間がコンパクトハウスドルフであるとは、任意のフィルターがただ一つの極限を持つことに他ならない。

連結性

(X,↘)が連結であるとは、以下の同値な条件のうちどれか一つ、したがって全てを満たすことである:
①真の部分集合でclopenなものは無い
②Xは開集合の非交和では表せない
③Xは閉集合の非交和では表せない

A,Bが分離されている
⇔ClA∩B=A∩ClB=∅とすれば、
④Xは分離されている集合の非交和では表せない
と言い換える事も出来る。

弧状連結性も位相空間と同じく「道」が存在すること として定義できる。

特殊なフィルター空間

いくつかの特殊なフィルター空間のクラスを紹介する。こちらも量化子や記号の説明は適宜省略する。
フィルター空間が
②収束空間⇔F↘x⇒(F∩[x])↘x
③極限空間⇔F,F'↘x⇒F∩F'↘x
④擬位相空間U\colon ultra,U↘x,F⊂U⇒F↘x
⑤前位相空間N(x)↘x*2
位相空間T(x)↘x*3

下に行くほど強い条件になっていることに注意せよ。したがって、例えば 擬位相空間⇒収束空間 等が成り立つ。

ところで、私の他にも収束空間についてのブログを書かれているラブルさんという方がいらっしゃるが、ラブルさんの言う収束空間とはここでの極限空間である。
このような揺れは色々な所で見られるようで、フィルター空間が(一般)収束空間と呼ばれ、収束空間がKent 収束空間と呼ばれている文献もあった。ncatlabを見ればここでの定義とほぼ同じ呼称が見られると思う。

位相空間・正則フィルター空間

フィルター空間を通して位相空間を定義し、その"双対"である正則空間も定義する。そのために、二三の概念を定義しておく。
[近日加筆予定:近傍化フィルター,閉包フィルター,定義と"双対"]

フィルターモナド

[近日加筆予定:CH位相空間とT代数、位相空間とUF代数、フィルター空間とΦ代数]
この節ではモナドとその代数に関する知識を要請する。圏論の言葉を知っていればncatlabを参照しながらでも読めると思うが、より詳しく知りたい場合は所謂CWM,HoCA2を読むと良い。

参考文献

(敬称等は省略させて頂く。)
・『位相性と正則性』
loveブルバキ(ラブル)
(リンク↓
http://tetobourbaki.hatenablog.com/entry/2018/08/08/183535 )

・『位相空間の圏と同型な関係T代数の圏について』
阿川 真士

・Lecture Notes in Mathematics
TOPO72 General Topology and its Applications
"Filter Space Monads,Regularity,Completions"
Wyler O.

・"Basic Properties of Filter Convergence Spaces"
Bärber M.R.Stadler , Peter F. Stadler

・"Categories for the Working Mathematician"
Saunders Mac Lane

*1:℘XでXの冪集合を表すことにする。

*2:N(x)\colon =\{A⊂X;F↘x⇒A∈F\}を近傍フィルターと呼ぶ。これは位相空間の近傍系の一般化である。

*3:前述のN(x)位相空間の近傍系の公理を満たすとき、これを位相的近傍フィルターと呼びT(x)で表す。