散れども切れぬ備忘録

代数学やその他数学に関することなどをそこはかとなく書きつくる備忘録

オイラーマスケローニ定数は存在するか?

今回は、無理数だろうと予測されているにもかかわらず、未だ無理数であることが証明されていない不思議な定数、「オイラーマスケローニ定数(通称オイラー定数)」が存在することを示します。
前提知識は数Ⅲ(商の微分、関数の極限etc…)です。

用語の説明

補足程度に用語を説明しますね。

まずは「補題」です。
ある定理を示したいときに、”先に示しておくと証明が楽になる定理” ”証明を助ける定理”のことを「補題(ホダイ)」といいます。
今回は二つの補題を示します。

次に「公理」です。
数学に関する議論をする上で、最も根本的なルールのことです。(例えば、「何も要素に持たない集合(空集合)が存在する」など)
言わば、「証明せずに用いてよい定理」「決まりごと」のことです。
今回は「下界を持つ単調減少列は収束する」ということを公理の一つとします。

※{ g_n}が下界を持つ:ある数Gがあって、全てのnに対して g_n\geqq Gとなる。
※{ g_n}は単調減少列である:全てのnに対してg_n\leqq g_{n-1} となる。

※※以下、nは自然数、xは実数であるとします。


補題1

補題1: n\geqq 2\Rightarrow\frac{1}{n}+\log(1-\frac{1}{n})<0

[証明]
 x>1として\frac{1}{x}+\log(1-\frac{1}{x})<0を示す。
まず、
\begin{align*}
\displaystyle
\frac{d}{dx}(\log(1-\frac{1}{x}))&=\frac{1}{x^2}\frac{1}{1-\frac{1}{x}}\\ &=\frac{1}{x(x-1)}
\end{align*}
である。
次に、f(x)=\frac{1}{x}-\log(1-\frac{1}{x}) とすると、
\begin{align*}
\displaystyle
\frac{d}{dx}f(x)&=-\frac{1}{x^2}+\frac{1}{x(x-1)}\\ &=-\frac{1}{x^2}+\frac{x}{x^2(x-1)}\\ &=\frac{1}{x^2(x-1)}>0
\end{align*}
なので、f(x)は単調増加である。
また、\displaystyle \lim_{x\rightarrow\infty}f(x)=0なので、f(x)<0である。
したがって、\frac{1}{x}+\log(1-\frac{1}{x})<0となる。 [終]

補題2

補題2: n\geqq 2\Rightarrow\frac{1}{n}+\log(1-\frac{1}{n})>-\frac{1}{n^2}

[証明]
x\geqq 2 として \frac{1}{x}+\frac{1}{x^2}+\log(1-\frac{1}{x})>0を示す。
 f(x)=\frac{1}{x}+\frac{1}{x^2}+\log(1-\frac{1}{x})とすると、
\begin{align*}
\displaystyle
\frac{d}{dx}f(x)&=-\frac{1}{x^2}-2\frac{1}{x^3}+\frac{1}{x(x-1)}\\ &=-\frac{x}{x^3}-\frac{2}{x^3}+\frac{x^2}{x^3(x-1)}\\ &=\frac{2-x}{x^3(x-1)}\leqq 0
\end{align*}
となるが、\frac{d}{dx} f(x)=0となるのはx=2のときのみで、
また
\begin{align*}
\displaystyle
f(2)&=\frac{1}{2}+\frac{1}{2^2}+\log(1-\frac{1}{2})\\ &=\frac{3}{4}+\log\frac{1}{2}\\ &=\log\frac{e^{\frac{3}{4}}}{2}\\ &>\log\frac{1+\frac{3}{4}+\frac{1}{2}\frac{9}{16}}{2}\\ &=\log\frac{\frac{32+24+9}{32}}{2}\\ &>\log 1=0
\end{align*}
となり、f(2)>0となるので、
x≧2ではf(x)は単調減少である(としてよい)。
また、 \displaystyle\lim_{x\rightarrow\infty}f(x)=0なので、f(x)>0である。
したがって、 \frac{1}{x}+\frac{1}{x^2}+\log(1-\frac{1}{x})>0となる。 [終]

 e^x>1+x+\frac{1}{2}x^2を用いています。

証明はしません。(高校数学だけで簡単に示せます。)

定理(オイラーマスケローニ定数は存在する)

いよいよ本題です。
オイラーマスケローニ定数が存在することを示します。

定義: \displaystyle\lim_{n\rightarrow\infty}(\sum^n_{k=1}\frac{1}{k}-\log n)=\gammaとし、
 \gammaオイラーマスケローニ定数と呼ぶ。

定理:オイラーマスケローニ定数は存在する。(定義式の極限が収束する)

[証明]
\displaystyle g_n=\sum^n_{k=1}\frac{1}{k}-\log nとし、 g_nの単調減少性と下界の存在を示すことで、g_n が収束することを示す。

補題1より、 n\geqq 2とすると、
g_n-g_{n-1} =\frac{1}{n}-\log(1-\frac{1}{n})<0となるから、g_n<g_{n-1} となる。
故に g_nは単調減少列である。

また、補題2より、
g_n-g_{n-1} =\frac{1}{n}-\log(1-\frac{1}{n})>-\frac{1}{n^2}であり、 g_n=1だから、

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となる。
故に g_n>0となるから、g_n は下界を持つ。

以上のことから、g_n は収束する。
つまり、オイラーマスケローニ定数は存在する。 [終]

 

それではこのへんで

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