散れども切れぬ備忘録

代数学やその他数学に関することなどをそこはかとなく書きつくる備忘録

有限群の淡中再構成(Tannaka Reconstruction)

2,3回に分けて、「有限群をその表現の成す圏から復元する」という淡中再構成(Tannaka Reconstruction)の一例を紹介します。初回となるこの記事では、主定理の主張とその証明をするための前提知識の紹介をします。

この記事を読むために必要な知識は群論線形代数及び圏論の初歩です。圏論の知識が無い方には『ベーシック圏論』の第一章や壱大整域を読むことをお勧めします。

主定理

このシリーズのゴールとなる定理は次の通りです:
[定理]
有限群Gに対して 適当な関手Fとその適当な自然自己同型群\mathrm{Aut}^⊗︎(F)があり、\mathrm{Aut}^⊗︎(F)≅Gとなる。

「適当な」については追々説明していきます。
また、証明はシリーズの最後に行います。

前提知識

先述した知識に加えて、表現論と「適当な」の定義が必要になるので、それらを必要最低限の量だけさらっておきます。

①有限群の表現論

有限群Gの有限次元複素表現とは、
有限次元複素ベクトル空間V
群準同型φ:G→\mathrm{GL}(V)=\mathrm{Aut}(V)の組(V,φ)のことです。
以下、単に表現,ベクトル空間と言えば有限次元複素表現,有限次元複素ベクトル空間を指すものとします。
ベクトル空間の成す圏を\mathrm{Vect}_ℂと書くことにすると、有限群Gの表現とは関手G→\mathrm{Vect}_ℂのことだと思うこともできます。

表現の例を見てみましょう。
①自明な表現(ℂ,ε)
∀g∈G,ε(g)=1∈ℂ^×=\mathrm{GL}(ℂ)とすると、これはGの表現になります。
②(左)正則表現(ℂG,ℓ)
与えられた有限群Gの元g∈Gをただのシンボルとみなして、Gを生成系(基底の集合)とする自由ベクトル空間を作り、これをℂGと表します。
ℂGには畳み込み積
(\sum_{g∈G}c_g・g)×(\sum_{g'∈G}c'_{g'}・g')
=\sum_{g∈G}\sum_{g'∈G}(c_g・c'_{g'})・(g・g')
=\sum_{h∈G}\sum_{k∈G}(c_{hk^{-1}}・c_k)・h
によって積が入り、和と合わせて環、特に代数(多元環)となります。
このことからℂGをGの群環あるいは群代数といいます。
∀g∈G,ℓ(g)=g・-;∀x∈ℂG,g・-(x)=gxとするとこれは表現になります。

よければ今挙げた例が実際に表現になることを確かめてみてください。

さて、二つの表現(V,φ),(W,ψ)が与えられた時、そのテンソル(V⊗︎W,φ⊗︎ψ)を以下のようにして構成できます:
V⊗︎Wをベクトル空間V,Wテンソル積とし、
∀g∈G,\sum_{i,j}v_i⊗︎w_j∈V⊗︎W,(φ⊗︎ψ)(g)(∑v_i⊗︎w_i)=\sum_{i,j}(φ(g)(v_i))⊗︎(ψ(g)(w_j))とする。
表現のテンソル積もまた表現になります。

また、表現の間の射も定義することができます。
表現の射f:(V,φ)→(W,ψ)とは,線型写像f:V→Wであって、∀g∈G,v∈V,f(φ(g)(v))=ψ(g)(f(v))を満たすもの、つまり、下の図式を可換にするものです:
V-φ(g)→V
↓f\ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ ↓f
W-ψ(g)→W

表現の射の例を見てみましょう。
①余単位ε:ℂG→ℂ
ε(\sum_{g∈G}c_gg)=\sum_{g∈G}c_gとすると、これは表現の射になります。
この射を群代数ℂGの余単位といいます。
②余積Δ:ℂG→ℂG⊗︎ℂG
Δ(\sum_{g∈G}c_gg)=\sum_{g∈G}c_g(g⊗︎g)とすると、これは表現の射になります。
この射を群代数ℂGの余積といいます。

この射により、有限群Gの表現は圏を成すので、これを\mathrm{Rep}_Gと表します。

蛇足①

環R上の加群が成す圏を\mathrm{Mod}_Rと表すことにすると、
\mathrm{Vect}_ℂ=\mathrm{Mod}_ℂ
\mathrm{Rep}_G=\mathrm{Mod}_{ℂG}
と書けます。
つまり、加群に対して成り立つ事柄はベクトル空間や表現に対しても成り立ちます。

蛇足②

群代数ℂGは余積Δ,余単位εによって余代数、すなわち双代数になります。
さらに対蹠SS(g)=g^{-1}で定めると双代数ℂGはHopf代数にもなります。
より一般に、体K上の群代数KGは余可換なHopf代数になります。
詳しくは阿部『ホップ代数』またはMilnor,Moore『On the structure of Hopf algebras』を参照してください。

テンソル自然変換

本来ならテンソル圏やテンソル関手の定義をするべきなのですが、ここでは本質的に必要無いので割愛します。その代わり、テンソル自然変換を定義します。

まず、忘却関手F:\mathrm{Rep}_G→\mathrm{Vect}_ℂを考えましょう。
これはF( (V,φ)⊗︎(W,ψ) )=F( (V,φ) )⊗︎F( (W,ψ) )を満たします。つまり、テンソル積を保存します。
これに倣って、テンソル積を保存する自然変換、特にテンソル積を保つ自然自己同型を以下のように定義します。
関手Fテンソル自然自己同型Tとは、
自然同型T:F⇒Fであって
T_{(V,φ)⊗︎(W,ψ)}=T_{(V,φ)}⊗︎T_{(W,ψ)}を満たすものです。
関手Fテンソル自然自己同型は群を成すので、これを\mathrm{Aut}^⊗︎(F)と表します。


これで必要な知識は揃いました。
次回からは補題の証明を行っていきます。
タイポ等あればお教え下さると助かります。