チャンパーノウン定数の無理性・超越性(前編)
今回は チャンパーノウン定数と呼ばれる数、0.123456789101112...の無理性と超越性を前編と後編に分けて紹介していきます。
前編となるこの記事では無理性を紹介します。
チャンパーノウン定数の起源
0.123456789101112...って、思えば結構へんてこな数ですよね。人工的に考えられた不自然な数という感じがあるからでしょうか。
では、こんなへんてこな数は何故考えられることになったのでしょう。そのわけと関連する性質を少し紹介します。
チャンパーノウン定数は、イギリスの経済学者D.G.Champernowneが"(10進)正規数"の具体例として提示した数のようです。
定義を簡単に言えば「小数点以下に自然数を順に並べた数」となります。見た目通りですね。
正規数というのは、言わば「ランダムな数」のことで、「n個の数字を並べた数字列が小数点以下に現れる確率がとなるような数」のことです。
例として「765」という数字列を考えてみましょう。「100の位」「10の位」「1の位」と名付けられた10面サイコロ(現実には存在しませんが)を同時に振って、出た目を順に対応させて、数字が三つ並んだ数字列を作ることを考えます。10面サイコロの目の出方は当然10通りであり、ある一つの数が出る確率は これまた当然ながらです。よって「765」という数字列が出てくる確率はとなります。
チャンパーノウン定数も同様に、「765」という数字列が出てくる確率が」になるというのです。
面白いですね。
また、正規数に関連する話題として「代数的無理数が(10進)正規数であるかは分かっていない(未解決問題である)」というのがあります。代数的無理数とは、(詳しくは後編で紹介しますが)例えばとかみたいな数のことです。
冒頭でふんわり言及していましたが、実はチャンパーノウン定数は無理数であり超越数であることが分かっています。(ちなみに代数的無理数ではありません。)
この記事では無理数であることのみ示します。
有理数と循環小数
の無理性の証明でもお馴染みだと思いますが、無理性を示すときは大体「有理数である」と仮定して矛盾を導きます。
よって、有理数の性質をよく知ることが大事になりますので、はじめに有理数の或る性質を紹介します。
準備として、議論を簡単にするための略表記のようなものを定義していきます。
(変に厳密にやっているだけなのでわかる方は飛ばしていただいても構いません。読まなくても雰囲気で意味が分かると思います。)
[定義]
rを実数、sを整数とします。
また、は0以上9以下の整数(自然数)とします。
であるとき、
と表すことにします。
同様に、であるとき、
と表すことにします。
ここで登場したsという数は、普通、ガウス記号を用いて「 [r] 」等と表される数です。
さらに循環小数を定義していきます。
[定義]
rを実数、sを整数とし、を0以上9以下の整数とします。
また、p,qを0以上の整数とします。
と表されるとき、rを循環小数といいます。
※空和(のような本来定義されない総和)は0とします。
また、このとき、
と表せます。
数字列を(rの)非循環節、数字列を(rの)循環節と呼ぶことにします。
実は、p,qはいろんな値を取り得
、一つに定まりません。
そこで、,とします。
また、このとき、「(rの)非循環節はP位である」「(rの)循環節はQ位である」ということにします。
[定義]
上記の定義において、「n>Nならば 常にとなる」または「n>Nならば 常にとなる」ようなrを有限小数ということにします。
有限小数はその循環節が0(または00,000,...,00...00)や9(または99,999,...,99...99)である循環小数と考えることができます。
[定理]
全ての有理数は循環小数であり、全ての循環小数は有理数です。
証明は少し複雑なので略します。
また、この定理から次の定理が直ちに従います。(このような、定理からすぐに導かれる別の定理を系といいます)
[系]
全ての循環しない無限小数(有限でない小数)は無理数であり、全ての無理数は循環しない無限小数です。
この定理を用いると、今回の主役、チャンパーノウン定数の無理性がわかります。
無理性の証明
θ=0.123456789101112...として、θの無理性を示すことにします。
[定理]
θは無理数です。
[証明]
まず、θは無限小数です。(θは自然数を並べて作った数であり、自然数は無限に存在するから)
よって、後は循環しないことを示せばよいことがわかります。
先述した通り、「循環小数である」と仮定して矛盾を導き、背理法から循環小数でないことを導きます。
θを循環小数と仮定します。
θの非循環節の位数をP、循環節の位数をQとし、非循環節の数字"列"をM、循環節の数字"列"をNとします。
(M,NはP,Q個の一桁の数字が並んだ数字列です)
このとき、θ#0.MNNN...と表せます。
とします。
このとき、R+1>P、R+1>Qです。
という自然数を考えてみましょう。このという数はR+1桁の数です。
R+1>P,Qなので、このという数はNにもMにも入り切りません。
つまりという自然数はθの数字列の中には含まれません。
しかし、θの定義から、θは全ての自然数を数字列内に含むので、当然という数も数字列内に含まれます。
これは矛盾です。(「含む」けれど「含まない」ので)
よって、「θは循環小数である」という仮定が間違っていたことがわかります。
つまり θは循環しない無限小数となるので、無理数となります。 □
この証明では背理法を使いましたが、じつは背理法を使わなくても直接無理数であることが示せるんです。
「証明その2」と題して紹介していきます。
無理性の証明その2
二つ目の証明では、背理法の代わりに「実数が或る不等式を満たせば無理数だ」というすごい定理を使います。
そのすごい定理のための準備となる定理(補題といいます)を先に示しておきます。
[補題1]
を実数列、cを正の定数とします。
任意のnに対して、常に>c>0が成り立っているとき、とはなりません。
[証明]
というのは、任意の正の数εに対して(εがどんなに小さくても)nを十分大きくとれば、とできるということです。(ε-N論法といいます)
ここで、ε=cとすると、仮定から>c=εとなり、<εとなるnが存在しないことがわかります。つまりとはなりません。□
[補題2]
を が定数列とならないような整数列とします。
0でない実数Aに対し、が成り立つなら、Aは無理数です。
[証明]
Aを有理数とします。
このときAはと表せます。(a,bは整数で、a≠0,b>0)
仮定から、
となります。
は定数列ではないのでです。したがっては0でない整数になります。0でない整数の絶対値は1以上なので、
となります。
よって、補題1においてとすれば、という仮定と矛盾します。
以上のことからAは有理数でない(実数なので無理数である)ことがわかります。 □
この補題を用いてθの無理性を示しましょう。
[定理(再掲)]
θは無理数です。
[証明]
補題2において、
とすればよいことがわかります。
実際、とすれば、
となるので
です。
したがって、はさみうちの原理からとなります。
よって、補題2から、θは無理数となります。 □
の定義がわかりづらいと思うので、よかったらn=3くらいまで計算してみてください。0に収束するようにうまく定義されているのがわかると思います。
以上、チャンパーノウン定数の無理性とその証明をしてみました。
後編では超越性を示していきます。
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