散れども切れぬ備忘録

代数学やその他数学に関することなどをそこはかとなく書きつくる備忘録

チャンパーノウン定数の無理性・超越性(後編)

今回は前回に引き続きチャンパーノウン定数を扱っていきます。
前回は無理性を示しましたが、今回は超越性を示します。

チャンパーノウン定数やその無理性についてはこちら(前回の記事)を↓

https://zangiri.hatenablog.jp/entry/2018/10/07/150035

超越数の定義等についてはこちら(前々回の記事)↓の前半をご覧下さい

https://zangiri.hatenablog.jp/entry/2018/08/25/103756

下ごしらえ

θ=0.123456789101112...とし(チャンパーノウン定数)、これをまずは∑で表すことを目標にします。
∑の形にしてあげることで超越性がとても示しやすくなるためです。

まずnケタの(自然)数xを考えます。
xはnケタなので10^{n-1}≦x<10^nが成り立ちます。
よって、nケタの数は全部で10^n-10^{n-1}=9・10^{n-1}個あることになります。
したがって、nケタの数を全て並べてできる数字列の長さを\ell_nとすると、
\ell_n=9n・10^{n-1}となります。
以上より、1~nケタの数を全て並べてできる数数字列の長さをL_nとすると、 L_n=\sum^n_{k=1}\ell_k=9\sum^n_{k=1}k・10^{k-1}となります。

このL_nを用いると、θを∑を使った形に変形できます。
実際、
\begin{align*}θ&=\frac{1}{10}+\frac{2}{10^2}+\cdots+\frac{9}{10^9}+\frac{1}{10^{L_1}}(\frac{10}{10^2}+\frac{11}{(10^2)^2}+\cdots+\frac{99}{(10^2)^{90}})+\frac{1}{10^{L_2}}(\frac{100}{10^3}+\cdots+\frac{999}{(10^3)^{900}})+\cdots\\ &=\frac{1}{10}+\frac{2}{10^2}+\cdots+\frac{9}{10^9}+\frac{10^{2・9}}{10^{L_1}}(\frac{10}{(10^2)^{10}}+\frac{11}{(10^2)^{11}}+\cdots+\frac{99}{(10^2)^{99}})+\frac{10^{3・99}}{10^{L_2}}(\frac{100}{(10^3)^{100}}+\cdots+\frac{999}{(10^3)^{999}})+\cdots\\&=\sum^9_{k=1}\frac{k}{10^k}+\sum^∞_{n=2}(\frac{10^{n(10^{n-1}-1)}}{10^{L_{n-1}}}・\sum^{10^n-1}_{k=10^{n-1}}\frac{k}{10^{nk}})\\&=\sum^9_{k=1}k・10^{-k}+\sum^∞_{n=2}(10^{-9\sum^{n-1}_{j=1}(j・10^{j-1})+n(10^{n-1}-1)}・\sum^{10^n-1}_{k=10^{n-1}}k・10^{-nk})...☆\end{align*}
と表せます。

Wikipediaに載っている形もこれになります。

さて、下ごしらえができたので調理していきましょう。

調理(更なる別表記)

θを∑の形に変形できましたが、ここから更に変形して扱いやすくしていきます。
普通に微分して
\begin{align*}\sum^{B-1}_{k=A}kx^{k-1}&=\frac{d}{dx}(\sum^{B-1}_{k=A}x^k)\\&=\frac{d}{dx}(\frac{x^B-x^A}{x-1})\\&=\frac{(x-1)(Bx^{B-1}-Ax^{A-1})-(x^B-x^A)}{(x-1)^2} \end{align*}
が成り立ちます。

これにx=10^{-n},A=10^{n-1},B=10^nを代入し、10^{-n}を両辺にかけて
\sum^{10^n-1}_{k=10^{n-1}}k10^{-nk}=10^n\frac{(10^{2n-1}-10^{n-1}+1)10^{-n10^{n-1}}-(10^{2n}-10^n+1)10^{-n10^n} }{(10^n-1)^2}
を得ます。

また、x=10,A=1,B=nとおくことで
-9\sum^{n-1}_{j=1}j10^{j-1}+n(10^{n-1}-1)=\frac{10^n-1}{9}-n
を得ます。

以上を☆に代入し、整理することで、
\begin{align*}θ&=\sum^∞_{n=1}10^{\frac{10^n-1}{9}}・\frac{(10^{2n-1}-10^{n-1}+1)10^{-n10^{n-1}}-(10^{2n}-10^n+1)10^{-n10^n} }{(10^n-1)^2}\\&=\frac{10}{81}-\sum^∞_{n=1}(\frac{10^{2n}-10^n+1}{(10^n-1)^2}-\frac{10^{2n+1}-10^n+1}{(10^{n+1}-1)^2})10^{-n10^n+\frac{10^n-1}{9}}\end{align*}
という表記を得ます。
ぱっと見ではわかりにくいと思いますが、これはかなり扱いやすい形で、実際 θについての収束の速い近似級数を与えます。

さて、これで調理は一通り終わりました。
あとは盛り付けのみです。

盛り付け(超越性の証明)

盛り付ける前に食器を用意しましょう。
補題」といって、証明の助けになる命題を紹介します。今回の補題は「ロスの定理」です。

[ロスの定理]
実数αについて,任意の実数ε>0に対し,\\0<|α-\frac{p_m}{q_m}|<\frac{1}{q_m^{2+ε}}\\を満たす整数列p_m,q_mが無限に存在するならば,\\αは超越数です。
証明はとても複雑なので略します。
これはつまり「有理数による近似がしやすい数は超越数だ」ということを主張する定理です。

さて、ここで
v_mを10-1,10^2-1,...,10^m-1の最小公倍数とし、
q_m=v_m^210^{(m-1)10^{m-1}+\frac{10^{m-1}-1}{9}},\\ \frac{p_m}{q_m}=\frac{10}{81}-\sum^{m-1}_{n=1}(\frac{10^{2n}-10^n+1}{(10^n-1)^2}-\frac{10^{2n+1}-10^n+1}{(10^{n+1}-1)^2})10^{-n10^n+\frac{10^n-1}{9}},\\
r_m=\sum^∞_{n=m}(\frac{10^{2n}-10^n+1}{(10^n-1)^2}-\frac{10^{2n+1}-10^n+1}{(10^{n+1}-1)^2})10^{-n10^n+\frac{10^n-1}{9}}
とします。

このときθ-\frac{p_m}{q_m}=-r_mとなります。
見るからにロスの定理ですね。
ということで近似の精度を測っていきます。とてもよい近似になっていれば超越数であることがわかります。

まず、定義からv_m^2≦(10・10^2・\cdots 10^m)^2=10^{m(m+1)}
となるので、
\lim_{m→∞}\frac{a_m}{b_m}=1のときa_m\approx b_mと書くことにすれば、
[tex:\log q_m\approx (m-1)10^{m-1}\log10となり、
またr_m\approx (1-\frac{1}{10})10^{-m10^m+\frac{10^m-1}{9}}より
\log r_m\approx -m10^m\log10となるので、
結局\frac{\log r_m}{\log q_m}\approx -10となります。
このことから、任意のε>0に対し、整数Nがあり、
0<|θ-\frac{p_m}{q_m}|=q_m^{\log r_m/ \log q_m}<\frac{1}{q_m^{10-ε}}
が全てのn>Nについて成り立つことが分かり、またq_m→∞であることからこの不等式は無限個の整数解p_m,q_mを持つことがわかります。
したがって、ロスの定理よりθは超越数です。

はい、ということでやっと示せました。
長かったですね…お疲れ様です。あとはもうゆっくりと召し上がって頂き味を堪能していただければと思います。

余談ですが、実はこの方法を応用することで(g≧2として、各自然数を小さい順に並べて得られるg進法小数をθ_gとすると)θ_gの超越性も示すことができます。これも面白いですね。

さて、最後になりましたが、今回の記事では『無理数超越数』という本を参考にしました。少し専門的な本になりますが、他にも面白い話がたくさん載っているのでよろしければご覧下さい。