散れども切れぬ備忘録

代数学やその他数学に関することなどをそこはかとなく書きつくる備忘録

有限群の淡中再構成(Tannaka Reconstruction)

2,3回に分けて、「有限群をその表現の成す圏から復元する」という淡中再構成(Tannaka Reconstruction)の一例を紹介します。初回となるこの記事では、主定理の主張とその証明をするための前提知識の紹介をします。

この記事を読むために必要な知識は群論線形代数及び圏論の初歩です。圏論の知識が無い方には『ベーシック圏論』の第一章や壱大整域を読むことをお勧めします。

主定理

このシリーズのゴールとなる定理は次の通りです:
[定理]
有限群Gに対して 適当な関手Fとその適当な自然自己同型群\mathrm{Aut}^⊗︎(F)があり、\mathrm{Aut}^⊗︎(F)≅Gとなる。

「適当な」については追々説明していきます。
また、証明はシリーズの最後に行います。

前提知識

先述した知識に加えて、表現論と「適当な」の定義が必要になるので、それらを必要最低限の量だけさらっておきます。

①有限群の表現論

有限群Gの有限次元複素表現とは、
有限次元複素ベクトル空間V
群準同型φ:G→\mathrm{GL}(V)=\mathrm{Aut}(V)の組(V,φ)のことです。
以下、単に表現,ベクトル空間と言えば有限次元複素表現,有限次元複素ベクトル空間を指すものとします。
ベクトル空間の成す圏を\mathrm{Vect}_ℂと書くことにすると、有限群Gの表現とは関手G→\mathrm{Vect}_ℂのことだと思うこともできます。

表現の例を見てみましょう。
①自明な表現(ℂ,ε)
∀g∈G,ε(g)=1∈ℂ^×=\mathrm{GL}(ℂ)とすると、これはGの表現になります。
②(左)正則表現(ℂG,ℓ)
与えられた有限群Gの元g∈Gをただのシンボルとみなして、Gを生成系(基底の集合)とする自由ベクトル空間を作り、これをℂGと表します。
ℂGには畳み込み積
(\sum_{g∈G}c_g・g)×(\sum_{g'∈G}c'_{g'}・g')
=\sum_{g∈G}\sum_{g'∈G}(c_g・c'_{g'})・(g・g')
=\sum_{h∈G}\sum_{k∈G}(c_{hk^{-1}}・c_k)・h
によって積が入り、和と合わせて環、特に代数(多元環)となります。
このことからℂGをGの群環あるいは群代数といいます。
∀g∈G,ℓ(g)=g・-;∀x∈ℂG,g・-(x)=gxとするとこれは表現になります。

よければ今挙げた例が実際に表現になることを確かめてみてください。

さて、二つの表現(V,φ),(W,ψ)が与えられた時、そのテンソル(V⊗︎W,φ⊗︎ψ)を以下のようにして構成できます:
V⊗︎Wをベクトル空間V,Wテンソル積とし、
∀g∈G,\sum_{i,j}v_i⊗︎w_j∈V⊗︎W,(φ⊗︎ψ)(g)(∑v_i⊗︎w_i)=\sum_{i,j}(φ(g)(v_i))⊗︎(ψ(g)(w_j))とする。
表現のテンソル積もまた表現になります。

また、表現の間の射も定義することができます。
表現の射f:(V,φ)→(W,ψ)とは,線型写像f:V→Wであって、∀g∈G,v∈V,f(φ(g)(v))=ψ(g)(f(v))を満たすもの、つまり、下の図式を可換にするものです:
V-φ(g)→V
↓f\ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ ↓f
W-ψ(g)→W

表現の射の例を見てみましょう。
①余単位ε:ℂG→ℂ
ε(\sum_{g∈G}c_gg)=\sum_{g∈G}c_gとすると、これは表現の射になります。
この射を群代数ℂGの余単位といいます。
②余積Δ:ℂG→ℂG⊗︎ℂG
Δ(\sum_{g∈G}c_gg)=\sum_{g∈G}c_g(g⊗︎g)とすると、これは表現の射になります。
この射を群代数ℂGの余積といいます。

この射により、有限群Gの表現は圏を成すので、これを\mathrm{Rep}_Gと表します。

蛇足①

環R上の加群が成す圏を\mathrm{Mod}_Rと表すことにすると、
\mathrm{Vect}_ℂ=\mathrm{Mod}_ℂ
\mathrm{Rep}_G=\mathrm{Mod}_{ℂG}
と書けます。
つまり、加群に対して成り立つ事柄はベクトル空間や表現に対しても成り立ちます。

蛇足②

群代数ℂGは余積Δ,余単位εによって余代数、すなわち双代数になります。
さらに対蹠SS(g)=g^{-1}で定めると双代数ℂGはHopf代数にもなります。
より一般に、体K上の群代数KGは余可換なHopf代数になります。
詳しくは阿部『ホップ代数』またはMilnor,Moore『On the structure of Hopf algebras』を参照してください。

テンソル自然変換

本来ならテンソル圏やテンソル関手の定義をするべきなのですが、ここでは本質的に必要無いので割愛します。その代わり、テンソル自然変換を定義します。

まず、忘却関手F:\mathrm{Rep}_G→\mathrm{Vect}_ℂを考えましょう。
これはF( (V,φ)⊗︎(W,ψ) )=F( (V,φ) )⊗︎F( (W,ψ) )を満たします。つまり、テンソル積を保存します。
これに倣って、テンソル積を保存する自然変換、特にテンソル積を保つ自然自己同型を以下のように定義します。
関手Fテンソル自然自己同型Tとは、
自然同型T:F⇒Fであって
T_{(V,φ)⊗︎(W,ψ)}=T_{(V,φ)}⊗︎T_{(W,ψ)}を満たすものです。
関手Fテンソル自然自己同型は群を成すので、これを\mathrm{Aut}^⊗︎(F)と表します。


これで必要な知識は揃いました。
次回からは補題の証明を行っていきます。
タイポ等あればお教え下さると助かります。

多項式と超越数

題名の通り、多項式超越数を代入した値の超越性についての備忘録です。備忘録なので雑に書きますが御容赦下さい。

さて、本題ですが、二つの定理(一つのよく知られた定理とそのちょっとした拡張)を紹介します。

以下、単に多項式と言えば有理数係数の一変数多項式とします。

[定理1]
tを超越数、f(x)を次数が0でない多項式とすると、f(t)は超越数である。
[証明]
f(t)が代数的数であったと仮定する。このとき多項式g(x)が在ってg(f(t))=0となるが、gfは多項式なのでtが超越数であることに矛盾する。故に、云々□

[備考]
代数的数体は代数閉体であるから、多項式を代数的数係数としても差し支えない。

[定理2]
f(x_1,...,x_n)∈Q[x_1,...,x_nで定数でない,tを超越数,k_1,...,k_nを各々0でない整数]とする。
このとき、T=f(t^{k_1},...,t^{k_n})とするとTは超越数である。
[証明]
充分大きな自然数mを取れ。
するとt^mT=t^mf(t^{k_1},...,t^{k_n})=g(t),g(x)∈Q[x]となる。
このときT=\frac{g(t)}{t^m}である。
Tを代数的数としP(x)をその定義多項式とする。
するとP(T)=P(\frac{g(t)}{t^m})=0となる。
充分大きな自然数m'を取れ。
するとx^{m'}P(\frac{g(x)}{x^m})=P'(x),P'(x)∈Q[x]となる。
このときP'(t)=0となるが、これはtが超越数であったことに反する。故にTは超越数である。□

[備考]
こちらも同じく係数は代数的数であるとしてよい。
またk_i>0とするとこれは定理1になる。つまり定理2は定理1の拡張である。

例)π+1/πは超越数である。

GrpとAbの間の随伴(おまけ:随伴の合成)

備忘録です。
群の圏Grpとアーベル群の圏Abの間には随伴関手があります。これを説明しました。短いので画像にしています。
f:id:zangiriontwitter:20190910204348j:plain
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「何を言ってるのかわからない」という方は群論の教科書とベーシック圏論の1,2章を読むといいでしょう。もしくは散切に聞いてくださっても構いません。
また、何かおかしい所があればご指摘下さると助かります。

超越数と体に関する備忘録

今回のブログは群論のようで体論のようでどちらでもない、つまらない備忘録です。
話のネタ程度に見て頂ければ、と思います。



[定義]
群Gとその部分群Hに対し、差G\HをGのHによる差群と呼ぶ。
※差群は単位元を持たないため群ではない。
※勿論一般的な用語ではない。

[補題]
差群は もとの群の演算について閉じていない。
つまり、∃x,y∈G\H , x*y∉G\H
[証明]
x*y∈Hが言えればよい。
そのために、まずx⁻︎¹︎∈G\Hを示す。
x⁻︎¹︎∉G\Hとするとx⁻︎¹︎∈Gよりx⁻︎¹︎∈H、したがって(x⁻︎¹︎)⁻︎¹︎=x∈Hとなるが、これはx∈G\Hつまりx∉Hに反し矛盾。したがって、x⁻︎¹︎∈G\H。
y=x⁻︎¹︎とせよ。このときx*y=x*x⁻︎¹︎=e∉G\Hとなる。□

更に、h∈Hに対してh*x∈G\Hが言える。
h*x∉G\Hとするとh*x∈Gよりh*x∈Hとなり、
h⁻︎¹︎∈Hなので、h⁻︎¹︎*h*x=x∈Hとなるが、これはx∉Hに反し矛盾するからである。

[定理]
超越数同士の和・積は超越数とは限らない。
また、任意の代数的数aに対して、その和・積がaであるような超越数の組が存在する。
[証明]
補題及び先の命題に対し、G=C,H=Aとせよ(ただし、乗法群を考える際は0を除け)。"演算"を和・積にすれば定理の主張が正しいことは明らかであろう。先の命題においてh=aとすれば、定理の主張の後半も示せる。□

この定理はもっと一般に(?)体・環とその部分体・部分環について言える。
例えば、「整数でない実数同士の和が整数になることがある」「無理数同士の積が有理数になることがある」「定数でない多項式同士の和が定数になることがある」等が言える。

近代のガロア理論と参考文献

題名の通りです。
近代のガロア理論に関するpdfを書いたので、演習問題と共にここに公開します。

[注意事項]
・前提知識は群論・体論の初歩です(少なくとも高校数学ではない)。
・結構読みにくいと思います。ご注意ください。
・誤字等ありましたらご連絡ください。

drive.google.com

【演習問題】
(1)S_2,S_3,S_4が可解群であることを示せ。
(2)素数p>3に対しS_pが可解群でないことを示せ。
(3)可解群の部分群は可解群であることを示せ。
(4)5以上の自然数nに対しS_nが可解群でないことを示せ。


【追記】
このpdfの他にもガロアの業績について纏められた文献が数多く存在します。それらの一部(私が特に優れていると思ったもの)を紹介します。

金重明 ガロアの論文を読んでみた
拙pdfの最後にも書きましたが、最も参考にした本です。ガロアの論文の行間を埋めてくれているので読みやすいです。ちょっとした背景の紹介もあります。
https://www.amazon.co.jp/%E3%82%AC%E3%83%AD%E3%82%A2%E3%81%AE%E8%AB%96%E6%96%87%E3%82%92%E8%AA%AD%E3%82%93%E3%81%A7%E3%81%BF%E3%81%9F-%E5%B2%A9%E6%B3%A2%E7%A7%91%E5%AD%A6%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%96%E3%83%A9%E3%83%AA%E3%83%BC-%E9%87%91%E9%87%8D%E6%98%8E/dp/4000296779
Amazonの評価だとコロラドさんのものが最も参考になります。購入の検討等される場合は読んでみてください。

・三森明夫 ガロア論文の古典的証明
これもpdfの最後に書いた参考文献です。
前提知識の解説、第一論文の和訳・解説、現代の(古典的)ガロア理論の解説が130p程のpdfになっています。古典的ガロア理論の前哨戦として近代のガロア理論をやるならこれを読むのが一番オススメです。
https://www.google.co.jp/url?sa=t&source=web&rct=j&url=http://scipio.secret.jp/Galois/galois_zenbun.pdf&ved=2ahUKEwiTl6zSq7XlAhUDyosBHdTlCTkQFjAZegQIAhAB&usg=AOvVaw0HFDMcVTbetnoBNlrfvdZi&cshid=1571935452700

・中西達夫 Gの夢
ガロアの論文に沿った解の公式の導出が見所です。第一論文の和訳ではないものの、会話形式なこともあり分かりやすいです。
http://galois.motion.ne.jp/index.html
特に参考文献の欄が充実しています。(古典的)ガロア理論を学ぶ際にも参考になるでしょう。
http://galois.motion.ne.jp/stories/G_Refer.html

・渡部一己 ガロアの第一論文を読む
第一論文の和訳とその背景の解説、及び前提知識の解説がpdfとして載っています。190pを超えるものの、記述がとても丁寧です。
https://sites.google.com/site/galois1811to1832/

・Bernard Bychan The Evarisre Galois Archive
題名・著者名から察せるように、本文は英語になっています。ガロアの原論文とその英訳等が読めるようです。
http://www.galois-group.net/

指数と超越数について

今回は題名の通り指数と超越数の関係について紹介します。備忘録なので結構適当に書きます。予め御了承下さい。

§1導入と補題

この世にはゲルフォントシュナイダーの定理という定理がありまして、ステートメントは以下の通りです。面倒臭いので以下GSと略記しますね。(証明はかなり面倒臭いのでしません。)

[定理](ゲルフォントシュナイダーの定理)(GS)
aを0,1でない代数的数、b有理数でない代数的数とする。
このときa^b超越数である。

分かりにくいので、簡潔に書くために「広義無理数」という概念を導入して、ちょっと条件を強くしましょう。
この記事内では「有理数でない”複素数”」のことを「広義無理数」と呼ぶことにします(普通の「無理数」は「有理数でない”実数”」です)。普通の無理数は勿論広義無理数ですが、\sqrt{-1}=i等の虚数(実数でない複素数)も広義無理数になります。ちなみに 一般的に使われている言葉ではないので注意してくださいね。あと、「代数的数であり広義無理数でもある複素数」のことを「代数的広義無理数」と呼ぶことにします。
条件を少し強くしたGSのステートメントは以下のように書けます。

[定理](GS')
a,bを代数的広義無理数とする。
このときa^b超越数である。

例えば、\sqrt2無理数である(つまり広義無理数でもある)ので\sqrt2^\sqrt2超越数ですし、i虚数なので広義無理数になり、i^i=e^{-\frac{π}{2}}超越数です。

また、自明ではありますが、次の補題(GS'の系)が成り立ちます。

[補題]
aを代数的広義無理数とする。
このときa^a超越数である。
逆に(対偶を取って)、a^aが代数的数であれば、aは代数的広義無理数ではない(有理数超越数である)。

この補題を使って面白い定理を示しましょう。

§2本題(超越数の指数)

ある数tがあってt^t=2だったとします。補題よりt有理数でなければ超越数となります。つまり、「超越数超越数乗は超越数である」の反例が作れるわけです。ということで、条件を満たすt有理数でないことを示しましょう。

[命題]
t^t=2を満たすt有理数でない。
(したがって補題から超越数である。)

[証明]
六個のステップに分けます。
また、以下n,mは正整数とします。

(i)t=nとします。
t^t=n^n=2となりますが、
1^1=1,2^2=4,3^3=27,...なので条件を満たすnは存在しません。よってtは正整数ではありません。

(ii)t=-nとします。
t^t=(-n)^{-n}=±\frac{1}{n^n}=2となるのでt^t=\frac{1}{n^n}=2とします。
n^n\geqq 1より\frac{1}{n^n}\leqq 1なのでこれは2になり得ません。
よってtは負の整数でもないので、(i)より整数ではありません。

(iii)t=\frac{1}{n}とします。
t^t=(\frac{1}{n})^{\frac{1}{n}}=\frac{1}{n^{\frac{1}{n}}}=2となるので
\frac{1}{n}=2^nとなりますが、\frac{1}{n}\leqq 1より不適です。
よってtの分子は1ではありません。

(iv)t=\frac{-1}{n}とします。
t^t=(-\frac{1}{n})^{-\frac{1}{n}}=±n^{\frac{1}{n}}=2となるので
n^{\frac{1}{n}}=2とします。
n=2^nとなりますが、
1≠2^1,2≠2^2,...なので条件を満たすnは存在しません。
よってtの分子は-1でもありません。

(v)t=\frac{n}{m}とします。
\frac{n}{m}は既約分数であるとしましょう。このとき(n,m)=1(nとmの最大公約数は1)(nとmは互いに素)です。
さて、t^t=(\frac{n}{m})^{\frac{n}{m}}=2となるので
\frac{n}{m}=2^{\frac{m}{n}}となります。つまり2^{\frac{m}{n}}有理数になります。したがって\frac{m}{n}は整数になるので(n,m)=1よりn=1となります。
しかし、このときt=\frac{1}{m}となってしまい(iii)よりこれは不適です。
よってtは正の有理数ではありません。

(vi)t=\frac{-n}{m}とします。
t^t=(-\frac{n}{m})^{-\frac{n}{m}}=±(\frac{m}{n})^\frac{n}{m}=2となるので
(\frac{m}{n})^{\frac{n}{m}}=2とします。(v)と同様にするとn=1となりますが、これは(iv)に反し、不適です。
よってtは負の有理数ではありません。

以上よりt有理数ではありません。□


今 間接的に「超越数超越数乗が代数的数になる」例が存在することを証明しましたが、実は「超越数超越数乗は常に代数的数になる」わけではないんですね。
実際、e^π=(i^i)^{-2}=i^{-2i}となりiも-2iも代数的広義無理数なのでe^π超越数になります。これも超越数のクソたる所以ですね…。

それではこの辺で。GSの証明が気になる方は森北出版の塩川宇賢 著『無理数超越数』を読んでみてください。そこそこ丁寧な証明が付いています。
また、ブログに関して何かあれば遠慮なく教えてください。

フィボナッチ数の逆数和について

この記事では「フィボナッチ数」とその逆数和について、ある面白い性質を紹介したいと思います。
フィボナッチ数の一般項も一から導くので「隣接三項間漸化式なんてワケワカメや…」という方も安心してください。

§1フィボナッチ数とその一般項

「そもそもフィボナッチ数って何?」という話をしたいと思います。
フィボナッチ数というのは
F_{n+2}=F_{n+1}+F_n,F_1=F_2=1
によって定められた数 F_n達のことです。式だけ眺めても「なんのこっちゃ」という感じでしょうから具体的に計算してみましょう。
まず、定義からF_1=1F_2=1がわかります。この二つの数からF_3F_3=F_2+F_1=1+1=2となることがわかります。この調子で計算していくと、F_4=F_3+F_2=3,F_5=5,F_6=8,\cdotsとなります。

このままでは規則性が分からないし、何より計算しづらいです(というかめんどくさい)。ということで、F_nを 定数とnを使った式で表現できないか、ということを考えます。幸いにも漸化式F_{n+2}=F_{n+1}+F_nが与えられているので、これをいじればなんとかなりそうだ と見当がつきます。
もし この漸化式を
(F_{n+2}-βF_{n+1})=α(F_{n+1}-βF_n)(☆)
という形に変形できれば、
a_n=F_{n+1}-βF_nとして
a_{n+1}=αa_nとなるので
a_n=α^{n-1}a_1となり、簡単な表示にできます。ということで、この形にできるようなα,βを求めましょう。

☆の式を変形すると
F_{n+2}=(α+β)F_{n+1}-αβF_n
となるので、フィボナッチ数の定義(の漸化式)からα+β=1,-αβ=1となることが分かります。ここでα,βを解に持つ方程式
(x-α)(x-β)=x^2-(α+β)x+αβ=0を考えると、α,βは方程式x^2-x-1=0の解であることがわかります(この方程式のことを「特性方程式」、その解のことを「特性解」と呼ぶことがあります(ここでは気にしなくて大丈夫です))。この方程式を解いて(解の公式を使うと楽です)α,β=\frac{1+\sqrt5}{2},\frac{1-\sqrt5}{2}を得ます。簡単のためにα>β、つまりα=\frac{1+\sqrt5}{2},β=\frac{1-\sqrt5}{2}としておきましょう。

分数と根号を使うのがめんどくさいので今まで通りα,βで代用しますが、とにかく定義の漸化式を
F_{n+2}-βF_{n+1}=α(F_{n+1}-βF_n)
と変形することができました。a_n=F_{n+1}-βF_nとすると
a_1=F_2-βF_1=1-β=\frac{1+\sqrt5}{2}=αなので
a_n=α^{n-1}・α=α^nとなります。
実は☆の式はαβを入れ替えても成り立ちます(特性方程式が同じものになるので)。つまり
F_{n+2}-αF_{n+1}=β(F_{n+1}-αF_n)
ともできるのです。
この式を解いた場合、b_n=F_{n+1}-αF_nとするとb_n=β^nとなります。
以上より
F_{n+1}-βF_n=a_n=α^n...①
F_{n+1}-αF_n=b_n=β^n...②
となるので、①-②を計算して
(α-β)F_n=α^n-β^nを得ます。
α-β=\sqrt5なので 結局
F_n=\frac{α^n-β^n}{\sqrt5}となります。

これでF_nnと定数で表すことができました。この表示を使うと計算がかなり楽になります。

§2逆数和とその収束

今回考える逆数和は 普通の逆数和\displaystyle\sum^∞_{n=0}\!\frac{1}{F_n}ではなく、添字が指数関数になっている\displaystyle\sum^∞_{n=0}\!\frac{1}{F_{2^n}}です。
まずはこの級数が収束するかを考えます。

丁寧に進めていくのでちょっと回りくどいように感じられるかも知れませんが御勘弁願います。

さて、まず
2^3=8\leqq 9=3^2\leqq (1+\sqrt5)^2
が成り立ちます。
ここで2\leqq 1+\sqrt5よりm=0,1,2,...とすると
2^{3+m}\leqq (1+\sqrt5)^{2+m}
2^{3+2m}\leqq (1+\sqrt5)^{2+2m}
となります。
n=m+1n=1,2,3,...とすると
2^{2n+1}\leqq (1+\sqrt5)^{2n}となるので
\frac{2^n}{(1+\sqrt5)^n}\leqq\frac{1}{2}\frac{(1+\sqrt5)^n}{2^n}
つまり
(\frac{1}{α})^n\leqq\frac{α^n}{2}となります。

αβ=-1よりβ=-\frac{1}{α}であることに注意して
\begin{align*}F_{2^n}&=\frac{1}{\sqrt5}(α^{2^n}-β^{2^n})\\ &=\frac{1}{\sqrt5}(α^{2^n}-(-\frac{1}{α})^{2^n})\\ &=\frac{1}{\sqrt5}(α^{2^n}-(\frac{1}{α})^{2^n})\\ &\geqq\frac{1}{\sqrt5}(α^{2^n}-\frac{α^{2^n}}{2})\\&=\frac{α^{2^n}}{2\sqrt5}\end{align*}
を得ます。

よって\frac{1}{F_{2^n}}\leqq\frac{2\sqrt5}{α^{2^n}}となるので
\begin{align*}\displaystyle\sum^∞_{n=1}\!\frac{1}{F_{2^n}}&\leqq\sum^∞_{n=1}\!\frac{2\sqrt5}{α^{2^n}}\\ &=2\sqrt5\sum^∞_{n=1}\!\frac{1}{α^{2^n}}\\&\leqq 2\sqrt5\sum^∞_{n=1}\!\frac{1}{α^n}\end{align*}
となりますが、\displaystyle\sum^∞_{n=1}\!\frac{1}{α^n}は公比\frac{1}{α}の無限等比級数であり|\frac{1}{α}|<1なので収束します。

したがって、\displaystyle\sum^∞_{n=1}\!\frac{1}{F_{2^n}}は収束します。

§3逆数和の超越性

今まで議論してきた逆数和が
超越数
②代数的数なら定義多項式はどんなものか
を知りたいので、それらを調べます。
(超越数や定義多項式超越数論の基本的な知識は下記ブログを参照してください↓)
https://zangiri.hatenablog.jp/entry/2018/08/25/103756

さて、
\displaystyle\sum^∞_{n=1}\!\frac{1}{F_{2^n}}=\sqrt5\sum^∞_{n=1}\!\frac{1}{α^{2^n}-(\frac{1}{α})^{2^n}}=\sqrt5\sum^∞_{n=1}\!\frac{(\frac{1}{α})^{2^n}}{1-(\frac{1}{α})^{2・2^n}}なので、
\displaystyle f(x)=\sum^∞_{n=1}\!\frac{x^{2^n}}{1-x^{2^{n+1}}}としてfを先に求めることにします。
(\displaystyle\sum^∞_{n=1}\!\frac{1}{F_{2^n}}=\sqrt5 f(\frac{1}{α}))です。)

\displaystyle\begin{align*}f(x^2)&=\sum^∞_{n=1}\!\frac{x^{2・2^n}}{1-x^{2・2^{n+1}}}\\ &=\sum^∞_{n=1}\!\frac{x^{2^{n+1}}}{1-x^{2^{n+2}}}\\ &=\sum^∞_{n=2}\!\frac{x^{2^n}}{1-x^{2^{n+1}}}\\ &=\sum^∞_{n=1}\!\frac{x^{2^n}}{1-x^{2^{n+1}}}-\frac{x^2}{1-x^4}\\ &=f(x)-\frac{x^2}{1-x^4}\end{align*}
なので
f(x^2)=f(x)-\frac{x^2}{1-x^4}となります。
両辺から\frac{1}{1-x^4}を引いて
\begin{align*}f(x^2)-\frac{1}{1-x^4}&=f(x)-\frac{x^2}{1-x^4}-\frac{1}{1-x^4}\\ &=f(x)-\frac{1+x^2}{1-x^4}\\ &=f(x)-\frac{1}{1-x^2}\end{align*}
となります。
つまりf(x^2)-\frac{1}{1-(x^2)^2}=f(x)-\frac{1}{1-x^2}となるので
f(x)-\frac{1}{1-x^2}は定数関数です。
xに0を代入するとf(0)-\frac{1}{1-0}=-1となるので
f(x)-\frac{1}{1-x^2}=-1より
f(x)=\frac{1}{1-x^2}-1=\frac{x^2}{1-x^2}となります。

fが求まったので件の逆数和の具体的な値が計算できます。
f(\frac{1}{α})=\frac{(\frac{1}{α})^2}{1-(\frac{1}{α})^2}=\frac{1}{α^2-1}ですが、
α^2-α-1=0よりα^2-1=αなので
結局\frac{1}{α^2-1}=\frac{1}{α}=-βとなります。
したがって
\displaystyle\sum^∞_{n=1}\!\frac{1}{F_{2^n}}=\sqrt5 f(\frac{1}{α})=\sqrt5\frac{\sqrt5-1}{2}=\frac{5-\sqrt5}{2}
となります。

見てわかるとおり、代数的数です。

代数的数だと分かったので定義多項式を求めましょう。
(以下簡単のため、件の逆数和をSと表記します。)
S=\frac{5-\sqrt5}{2}=3-αなので
α=3-Sです。
これとα^2-α-1=0より
S^2-5S+5=0です。
そしてこれはSの定義多項式になります。

つまりSは2次の代数的無理数なのです。

§4あとがき

今回の議論でSが代数的数であることが分かりました。
が、何が面白いのか、また 何故こんな級数を考えるのか疑問に思った方もいるのではないでしょうか。
実はこの数、面白いことに、一時期超越数だと勘違いされていたんです。
このSの形をした級数を除き、\sum^∞_{n=1}\!\frac{c_n}{F_{a^n+b}}超越数なのですが、これを最初に発表したMahlerという数学者が勘違いをしていて、後に訂正されたのです。ということで、今回は「例外」であることを示した、というわけなのです。
ちなみにf(x^2)=f(x)-\frac{x^2}{1-x^4}という関数方程式が出てきましたが、こんな感じの関数方程式を満たす関数を「Mahler関数」と言います。応用の幅がとてつもなく広いので 超越数論ではかなりメジャーで中心的な関数です。論文がゴロゴロ転がってるので超越数論をガッツリやりたいという方は調べてみてください。

それではこの辺で。
コメント等あれば遠慮なうどうぞ。