散れども切れぬ備忘録

代数学やその他数学に関することなどをそこはかとなく書きつくる備忘録

Rigid monoidal category⇒Closed monoidal categoryの証明

題名の通りです。
双対対象(ベクトル空間に対する双対空間のようなもの)を持つ圏をRigid monoidal category(和名:剛モノイダル圏)といい、内部Hom(ベクトル空間に対する写像空間のようなもの)を持つ圏をClosed monoidal category(和名:閉モノイダル圏)といいます。
ベクトル空間の圏はこの2つの圏の例になっており、実際に双対空間V*や写像空間Hom(V,W)を定義することができます。
線形代数によく親しんだ方なら分かると思いますが、実はベクトル空間についてはHom(V,W)≅V*⊗︎Wという関係が成り立っています。一般のモノイダル圏についてもこれと似た関係があり、題名になっている関係が成り立つので、備忘録がてらこれの証明を記事にします。
間違い*1などあれば教えて下さると助かります。

この記事ではモノイダル圏に関する基礎事項は既知とします。モノイダル圏を学ぶための標準的な教科書(和書)は『圏論の基礎』でしょうが、英語でも構わないのであればサーベイのpdfがネット上で沢山公開されているのでそれらを読むと良いでしょう。
モノイダル圏の定義は『カルテシアン圏と余代数』( https://zangiri.hatenablog.jp/entry/2019/11/23/031706 )にも書かれていますので目を通してみてください。

Rigid

以下(\mathcal{V},⊗︎,1)をstrictな*2モノイダル圏とします。
また、id_XをしばしばXとも書きます。

[定義](Rigid object)
X∈\mathcal{V}に対して
Y∈\mathcal{V},c_X\colon 1→X⊗︎Y,e_X\colon Y⊗︎X→1があり、
これらが(X⊗︎e_X)∘(c_X⊗︎X)=id_X,(e_X⊗︎Y)∘(Y⊗︎c_X)=id_Yを満たすとき、
Xをright*3 dualizable objectと呼び、組(Y,e_X,c_X)または単にYXのright dual objectと呼びます。また、right dualizable objectはしばしばright rigid objectとも呼ばれます。
同様に、left dual objectがY∈\mathcal{V},c_X\colon 1→Y⊗︎X,e_X\colon X⊗︎Y→1の適当な組として定義されます。
Xがleft dualizableかつright dualizableでleft dualとright dualが同型である時、Xをbi-dualizable object、Yをbi-dual object*4と呼びます。

後で示しますが、right dual objectは存在すれば同型を除いて一意なので、しばしばX^*と表されます。同様にleft dual objectは{}^*Xと表されます。また、bi-dualの時にはX^*と表すことが多いです。

[定義](Rigid category)
モノイダル圏\mathcal{V}の対象が全てright(left,bi) dualizableであるとき、したがって全ての対象がright(left,bi) dual objectを持つとき、モノイダル圏\mathcal{V}はright(left,bi) rigid monoidal categoryであるといいます。

(例)
有限次元k-ベクトル空間の圏fdVect_kの対象Vはdual objectとしてV^*=Hom(V,k)を持ちます。ゆえにfdVect_kは(bi-)rigid categoryです。

Closed

[定義](tensor action)
X∈\mathcal{V}とします。関手-⊗︎X\colon \mathcal{V}→\mathcal{V};Y⟼Y⊗︎Xをright*5 tensor action (functor)と呼びます。
余談*6
同様に、X⊗︎-をleft tensor actionと呼びます。
X⊗︎--⊗︎Xが自然同型であるとき、関手-⊗︎Xをbi-tensor action functorと呼びます。

[定義](closed object)
right tensor action functor-⊗︎Xが右随伴を持つとき、Xをright closed objectと呼び、-⊗︎Xの右随伴を-⇐Xと表します。
同様に、left tensor action functorX⊗︎-が右随伴を持つとき Xをleft closed objectと呼び、随伴をX⇒-と表します。
bi-tensor action functor-⊗︎Xが右随伴を持つとき、Xをbi-closed objectと呼び、その随伴を[X,-] と表し、internal hom functorと呼びます。このinternal hom functor[X,-] は 定義からX⇒-,-⇐Xと自然同型です。

[定義](Closed category)
モノイダル圏\mathcal{V}の対象が全てright(left,bi) closedであるとき、モノイダル圏\mathcal{V}はright(left,bi) closed monoidal categoryであるといいます。

(例)
fdVect_kにおいてHom_{fdVect_k}(V,W)にはベクトル空間の構造を自然に入れることができ、よってこれは関手Hom_{fdVect_k}(V,-)を定めます。この関手はbi-tensor action-⊗︎Vの右随伴になっており、これが任意のV∈fdVect_kについて成り立つので、fdVect_kはbi-closed monoidalです。
一般のモノイダル圏においても[X,Y] はHom集合のような役割を果たすので 内部ホム(internal hom)という名前が付いています。(ホムが またモノイダル圏の"内部"に入る([X,Y]∈Vとなる)ので「内部ホム」です。)

Rigid⇒Closed

次の定理を示します:
[定理](rigid⇒closed)
right rigid objectはright closed objectです。
[証明]
X∈\mathcal{V}とし、これをright rigid objectとします。
-⇐X-⊗︎X^*で与え、これが-⊗︎Xの右随伴になっていることを示します。
そのためには(余)単位射η_V\colon V→V⊗︎X⊗︎X^*,ε_V\colon V⊗︎X^*⊗︎X→Vを与え、これらが任意のV∈\mathcal{V}に対して三角等式を満たすことを示せばよいです。(このことの証明は例えば『ベーシック圏論』に載っています。)
η_V=V⊗︎c_X,ε_V=V⊗︎e_Xとすれば、V⊗︎-は関手なので、right rigid objectの定義から明らか三角等式に満たします。 ■

これと殆ど同様にしてleft rigid object⇒left closed objectも示せます。
また、以下の系を得ます:
[系]
・bi-rigid object⇒bi-closed object
・right(left,bi) rigid monoidal category⇒right(left,bi) closed monoidal category

このことを鑑みて、(bi-)closed monoidal category において\mathbb{D}X=[X,1] とし、これをweak dualと呼ぶことがあるようです(が、使い道はよく分かりません)。例えばfdVect_kにおいては[X,1]=[X,k]=Hom(X,k)=X^*なので妥当な定義と言えます。

先程「あとで示す」と言っていた「dual objectは同型を除いて一意」を示します。これは「rigid objectならclosed object」を使うと簡単に示せます。
[定理]
X∈\mathcal{V}を(right) rigid objectとし、そのdual objectをY,Y'とします。このときY≅Y'です。
[証明]
Y,Y'はXのright dual objectなので、「right rigid objectならright closed object」から-⊗︎X⊣︎-⊗︎Y,-⊗︎Y'となります。随伴は自然同型を除いて一意なので自然に-⊗︎Y≅-⊗︎Y'であり、これに1を代入すればY≅Y'が得られます。■

Appendix:Braided

[定義](Braided object)
B∈\mathcal{V}がBraided objectであるとは、任意の対象X∈\mathcal{V}に対して射β_{B,X}\colon B⊗︎X→X⊗︎Bがあって、これが自然に同型であることです。
つまり、自然変換β\colon B⊗︎-→-⊗︎Bがあってこれが自然同型であるときBをBraided objectと呼びます。

[命題]
B⊗︎-,-⊗︎Bが自然同型であることとBがBraided objectであることは同値です。
同様に、B⇒-,-⇐Bが自然同型であることとBがBraided objectであることは同値です。
また、BがBraided objectであるとき、left(right) tensor action functorやleft(right) internal hom functorはbi-〜になります。

[定義]
モノイダル圏\mathcal{V}の全ての対象がBraidedであり、
ββ_{X⊗︎Y,Z}=(β_{X,Z}⊗︎Y)∘(X⊗︎β_{Y,Z}),β_{X,Y⊗︎Z}=(Y⊗︎β_{X,Z})∘(β_{X,Y}⊗︎Z)を満たすとき、\mathcal{V}をBraided monoidal categoryと呼びます。

[命題]
Braided monoidal category内においては左右の概念は一致し、どちらもbi-となります。

*1:ただし、呼称や表記の揺れは除く。

*2:つまり、(a⊗︎b)⊗︎c=a⊗︎(b⊗︎c),1⊗︎a=a=a⊗︎1を課します。strictでない場合にも殆ど同様の議論ができます。

*3:文献によってはleftとしている場合があります。というか寧ろleftの方が多いように感じます。しかし、ここでは 後で定義する概念の左右の適合のためにrightとしています。

*4:単にdualと呼ばれることが多いですが、混乱すると思ったのでbi-を付けることにしました。あまり見かけませんが既存の用語です。

*5:右からかけるのでrightです。これについては呼称の揺れはあまり無いようです。

*6:-⊗︎XがモナドになるのとX=1⊗︎Xがモノイドであることは同値です。また、これをAb上で考えると、モナドであるright tensor actionの代数(加群)と環上の右加群は概念として一致します。

淡中再構成(モノイド作用)

淡中双対の簡単な例(モノイド作用を使った例)を紹介します。

※この記事では米田の補題(『ベーシック圏論』第4章までの内容)は既知とします。

Terminology

以前『有限群の淡中再構成』( https://zangiri.hatenablog.jp/entry/2019/10/17/023930 )という記事を書きました。これは(有限)群の表現による淡中双対でしたが、今回は作用による淡中双対を見るので、内容が少しズレます。その分 直感的で易しくなると思います。

まずは幾つかの用語を定義します。分からない単語等があればncatlabを参照すると良いでしょう。

モノイドの圏

集合の成す圏をSetと表します。
Setは有限極限を持つのでカルテシアンモノイダル圏です。したがって、モノイド対象が定義できます:
(M,μ^M,u^M)がモノイド対象であるとは
Mは集合、μ^M\colon M×M→M,u^M\colon 1→M写像で、以下の図式を可換にすること:
f:id:zangiriontwitter:20200401194220j:plain

今回はモノイド対象をSetの上で考えるので、モノイド対象を単にモノイドと呼びます。
また、(M,μ^M,u^M)を略してMと書くことがあります。

モノイドは乗法と単位を持つので、この2つを保つものとしてモノイド射を定義できます:
f\colon M→Nがモノイド射であるとは
(M,μ^M,u^M),(N,μ^N,u^N)はモノイドで、f\colon M→M写像
f(μ^M)=μ^N(f×f),f(u^M)=u^N
の両方を満たすことです。

モノイドを対象としてモノイド射を射とすると圏を成すので、この圏をMonと表します。

今まで大仰にモノイドとその射を定義しましたが、所謂普通のモノイド・モノイド準同型を圏論の言葉に訳したに過ぎないので、よくわからなければそちらで認識して頂いて構いません。

モノイド作用の圏

モノイドが定義できたので、次はモノイドの集合への作用を定義します。

(X,ρ^X)M-集合であるとは
Xは集合で、ρ^X\colon M×X→X写像
加群律を満たす、すなわち、次の図式を可換にする:
f:id:zangiriontwitter:20200401194244j:plain
の両方を満たすことです。

M-集合はMからの作用を持つので、この作用を保つ写像としてM-集合の射が定義できます:
f\colon (X,ρ^X)→(Y,ρ^Y)がM-集合の射であるとは
f\colon X→Y写像
f(ρ^X)=ρ^Y(id_X×f)が成り立つ
の両方を満たすことです。

対象をM-集合、射をM-集合の射とすると圏を成すので、この圏をM-setと表します。

特別な作用として正則作用と呼ばれるものがあります:
M-集合として(M,ℓ)を取り、ℓ\colon M×M→MをMの乗法μ^Mで定めるものです。

前層圏と米田の補題

Cに対して、関手圏Func(C,Set)=[C,Set]=Set^Cは圏になります。これを圏Cの前層圏と呼び、\hat{C}と表します。

前層圏の元F\colon C→SetCの対象Xを用いてF≅Hom_C(X,-)と表されるとき、Fは表現可能であると言います。

Cの対象XHom_C(X,-)に対応させる関手を米田埋込みと言い、この対応から定まる関手をY\colon C→\hat{C}と表します。

米田埋込みについて、以下の定理が成り立ちます:
[定理](米田の補題)
Hom_{\hat{C}}(Ya,Yb)≅Hom_C(a,b)
なお、この同型は 対応θ⟼θ_a(id_a),Y_f↤fで与えられる。

Lemma

忘却関手F\colon M-set→Setを(M-setの)ファイバーと呼びます。ファイバーについて以下の定理(補題)が成り立ちます。

[補題]
ファイバーFは表現可能です。
特に、F≅Hom_{M-set}( (M,ℓ),-)です。
[証明]
以後Hom_{M-set}( (M,ℓ),-)を略してHom(M,-)と書くことにします。
Hom(M,X)≅XHom(M,f)=fを示せばよいです。
①)
同型を与える写像φ^X\colon Hom(M,X)→Xを構成すればよいです。
実際、φ^X(f)=f(e)(=f(u(*) ) )とするとこれは全単射になります*1 *2
②)
Hom(M,f)=f∘-ですが、g∈Hom(M,X)x=g(e)∈Xが対応することを考えれば、fg↔f(g(e) )という対応によりf=Hom(M,f)となります。 ■

Main Theorem

ファイバーFの自己自然変換の成すモノイド*3Hom_{\hat{M-set}}(F,F)=Nat(F,F)EndFと表します。
このEndFについて、以下の定理が成り立ちます:
[定理1]
EndFMは集合として自然に同型。
[証明]
先の補題と米田の補題から
EndF
=Nat(F,F)
=Nat(Hom(M,-),Hom(M,-) )
≅Hom(M,M)
≅M

さらに、モノイドとしても同型であることがわかります:
[定理2]
EndFMはモノイドとして同型。
[証明]
まずEndFに自然に積が入ってモノイドになることを示します。
補題の証明の①からM≅Hom(M,M)であり、この同型がL\colon m⟼μ^M(m,-)=m・-で与えられることが分かります。
また、定理1の証明と米田の補題からHom(M,M)≅EndFであり、この同型がY\colon f⟼Y_fで与えられることが分かります。
この2つの対応を合成してY_L\colon m⟼Y_{m・-}を考えると、これが積を与えモノイドを成すことが分かります。
またこのY_Lモノイド準同型であることもすぐにわかり、したがってモノイド同型を与えることもわかります。■

これはつまり、
モノイドについて調べたい時は それが作用する集合(言わば「表現」)を見れば充分であり、またそこから得られた性質はファイバーとその圏論的性質から復元できるということです。
この モノイド~表現 の対応のことを淡中双対といいます。今回の場合は「モノイドとモノイド作用付集合は淡中双対」という言い方ができます。
ふつう淡中双対と言うと「局所コンパクト群とその表現は淡中双対」というのを指すことが多いですが、今回のような身近で簡単な例にも淡中双対が現れます。

少し踏み込んで、次の系を紹介します。

[系]
定理2において、特にMが群Gであるとき、G≅EndF=AutFが成り立ちます。

この系は「代数群(代数多様体の圏の群対象)とその表現は淡中双対」というよく知られた定理と全く同じ形*4をしています。
この代数群の表現の圏は淡中圏と呼ばれており、代数学圏論に限らず 色んな分野で活躍している概念です。

ncatlabで「Tannaka duality」等と調べると さらに踏み込んだ話や参考文献が出てきますので是非ご覧下さい。

最後まで読んで頂き有難うございました。

*1:全射性:g_x(a)=ρ^X(a,x)とするとこれはM-集合の射で、特にHom(M,X)の元になる。このときg_x(e)=xなのでよい。

*2:単射性:φ^Xf=φ^Xf'とするとf(e)=f'(e)となる。ここでfはM-集合の射なのでf(m)=ρ^X(m,f(e) )=ρ^X(m,f'(e) )=f'(m)となるのでf=f'、したがって単射

*3:積は合成で与えられる

*4:同じなのは形だけであって、モノイドの議論を代数群の議論に持ち上げれば良いわけではないことに注意せよ。

フィルター空間

フィルター空間と呼ばれる「空間」に関する議論の紹介・覚え書きです。何か致命的な間違いがあれば教えて下さると助かります。

フィルターとフィルター空間

フィルター

集合Xと空でない℘X*1の部分集合F∈℘℘Xについて、
F
①フィルター基である⇔∀A,B∈F,∃C∈F,C⊂A∩B
②フィルターである
⇔①かつ∀A∈F,A⊂B⊂X⇒B∈F
③固有フィルターである
⇔①②かつ∅∉F
※フィルターに対しては ②と②':A∩B∈Fは同値

フィルター基βに対して[β]\colon =\{ A⊂X;∃B∈β,B⊂A\} はフィルターになる。これをフィルター基βから生成されるフィルターと呼ぶ。特にx∈Xに対して\{\{x\}\}はフィルター基になるので[\{\{x\}\}] [x] と表す。これは点フィルター、主フィルター、単項フィルター等と呼ばれる(ここでは点フィルターと呼ぶ)。同様にA⊂Xについても[\{A\}] はフィルターになる(ここではこれを単項フィルターと呼ぶ)。

集合X上の固有フィルター全体の集合をΦXと表す。ΦXにおける(包含に関する)極大元を極大フィルターと呼ぶ。点フィルターは極大フィルターになる(ZFC)ので主極大フィルター等と呼ばれることがある(が、ここでは単に点フィルターと呼ぶ)。

フィルター空間

集合X,Yに対して、関係r\colon X→Yとはr⊂X×Yのことである。詳しくはWikipedia等を見よ。

集合Xと関係↘\colon ΦX→Xの組(X,↘)がフィルター空間であるとは、以下を満たすことを言う:
∀F,F'∈ΦX,F↘xカツF⊂F'⇒F'↘x
∀x∈X,[x]↘x

◎は「↘は収束構造を定める」と言われることもある。
また、◎はLimF=\{x∈X;F↘x\}とすれば
F⊂F'⇒LimF⊂LimF'とも書ける。
Conv(X)=\{x∈X;∃F∈ΦX,F↘x\}とすれば
①はConvX=Xとも書ける。

写像f\colon X→X'X上のフィルターFに対して f(F)X'上のフィルター基になる。[f(F)] f[F] と表し像フィルターと呼ぶ。

写像f\colon (X,↘)→(X',↘')連続写像であるとは以下を満たすこと:
F↘x⇒f[F]↘'f(x)

フィルター空間を対象とし連続写像を射とする圏が得られる。これをフィルター空間の圏と呼びFilと表す。

この圏はカルテシアン閉であり、「良い空間の圏」として知られている。

フィルター空間の性質

以下(X,↘)をフィルター空間とし、
A,Bを台集合Xの部分集合とする。

フィルター空間の開核・閉包

\mathrm{Int}(A)=\{x∈A;F↘x⇒A∈F\}
\mathrm{Cl}(A)=\{x∈X;∃F∈ΦX,A∈F\ and\  F↘x\}
とし、それぞれAの開核・閉包と呼ぶ。

開核・閉包に対して以下の公式が成り立つ:
[Thm. 1.]
(1)X-\mathrm{Int}(A)=\mathrm{Cl}(X-A),X-\mathrm{Cl}(A)=\mathrm{Int}(X-A)
(2)\mathrm{Int}(∅)=X-Conv(X),\mathrm{Cl}(X)=Conv(X)
(3)\mathrm{Int}(X)=X,\mathrm{Cl}(∅)=∅
(4)Int,Clは包含(による順序)を保つ。

(X,↘)が◎を満たすとき、前節の①はA⊂\mathrm{Cl}(A)に同値である。
さらにこれがフィルター空間である(◎と①を満たす)なら、以下も成り立つ:
[Cor. 1.]
(1)\mathrm{Int}(∅)=∅,\mathrm{Cl}(X)=X
(2)\mathrm{Int}(A∩B)=\mathrm{Int}(A)∩\mathrm{Int}(B),\mathrm{Cl}(A∪B)=\mathrm{Cl}(A)∪\mathrm{Cl}(B)

開集合・閉集合

A
開集合⇔A=\mathrm{Int}(A)
閉集合A=\mathrm{Cl}(A)

次が成り立つ:
[Thm.2.]
(1)∅,X\colon clopen
(2)O_λ\colon open⇒\bigcup_{λ∈Λ}O_λ\colon open
(3)C_λ\colon close⇒\bigcap_{λ∈Λ}C_λ\colon close

分離性

位相空間に対する分離公理はフィルター空間に対しても定義され、またこの二つは一致することが知られている。以下に定義を記す(量化子や記号の説明は適宜省略するので察してほしい。):
T_0\colon [x]↘y∧[y]↘x⇒x=y
T_1\colon [x]↘y⇒x=y
reciprocal \colon x,y∈LimF⇒\{G|G↘x\}=\{G'|G'↘y\}
Hausdorff \colon x,y∈LimF⇒x=y
T_2 \colon F↘x,G↘y,x≠y⇒F∩G=∅
Urysohn \colon F↘x,G↘y,x≠y⇒Cl(F)∩Cl(G)=∅

フィルター空間に対しては
T_2⇔Hausdorff⇔T_0∧reciprocal
が成り立つ。

また、フィルター空間がコンパクトであるとは 任意のフィルターが極限を持つことである。
したがって、フィルター空間がコンパクトハウスドルフであるとは、任意のフィルターがただ一つの極限を持つことに他ならない。

連結性

(X,↘)が連結であるとは、以下の同値な条件のうちどれか一つ、したがって全てを満たすことである:
①真の部分集合でclopenなものは無い
②Xは開集合の非交和では表せない
③Xは閉集合の非交和では表せない

A,Bが分離されている
⇔ClA∩B=A∩ClB=∅とすれば、
④Xは分離されている集合の非交和では表せない
と言い換える事も出来る。

弧状連結性も位相空間と同じく「道」が存在すること として定義できる。

特殊なフィルター空間

いくつかの特殊なフィルター空間のクラスを紹介する。こちらも量化子や記号の説明は適宜省略する。
フィルター空間が
②収束空間⇔F↘x⇒(F∩[x])↘x
③極限空間⇔F,F'↘x⇒F∩F'↘x
④擬位相空間U\colon ultra,U↘x,F⊂U⇒F↘x
⑤前位相空間N(x)↘x*2
位相空間T(x)↘x*3

下に行くほど強い条件になっていることに注意せよ。したがって、例えば 擬位相空間⇒収束空間 等が成り立つ。

ところで、私の他にも収束空間についてのブログを書かれているラブルさんという方がいらっしゃるが、ラブルさんの言う収束空間とはここでの極限空間である。
このような揺れは色々な所で見られるようで、フィルター空間が(一般)収束空間と呼ばれ、収束空間がKent 収束空間と呼ばれている文献もあった。ncatlabを見ればここでの定義とほぼ同じ呼称が見られると思う。

位相空間・正則フィルター空間

フィルター空間を通して位相空間を定義し、その"双対"である正則空間も定義する。そのために、二三の概念を定義しておく。
[近日加筆予定:近傍化フィルター,閉包フィルター,定義と"双対"]

フィルターモナド

[近日加筆予定:CH位相空間とT代数、位相空間とUF代数、フィルター空間とΦ代数]
この節ではモナドとその代数に関する知識を要請する。圏論の言葉を知っていればncatlabを参照しながらでも読めると思うが、より詳しく知りたい場合は所謂CWM,HoCA2を読むと良い。

参考文献

(敬称等は省略させて頂く。)
・『位相性と正則性』
loveブルバキ(ラブル)
(リンク↓
http://tetobourbaki.hatenablog.com/entry/2018/08/08/183535 )

・『位相空間の圏と同型な関係T代数の圏について』
阿川 真士

・Lecture Notes in Mathematics
TOPO72 General Topology and its Applications
"Filter Space Monads,Regularity,Completions"
Wyler O.

・"Basic Properties of Filter Convergence Spaces"
Bärber M.R.Stadler , Peter F. Stadler

・"Categories for the Working Mathematician"
Saunders Mac Lane

*1:℘XでXの冪集合を表すことにする。

*2:N(x)\colon =\{A⊂X;F↘x⇒A∈F\}を近傍フィルターと呼ぶ。これは位相空間の近傍系の一般化である。

*3:前述のN(x)位相空間の近傍系の公理を満たすとき、これを位相的近傍フィルターと呼びT(x)で表す。

九大の院試(代数学)を解いた

題名の通りです。九大の院試の過去問を 代数学を中心に解いてみましたので公開します。元の問題はこちら( https://www.math.kyushu-u.ac.jp/entryexams/view/6 )から見ることができます。

※間違い等ありましたらお教え下ると助かります。

2020年度専門科目

[1]

f:id:zangiriontwitter:20200109174401j:plain
(以下解答)
(1)
部分群であることを示すためには①全域性②単位元の存在③逆元の存在 を示せばよいです。順に見ていきます。
①)
g,h∈N_G(T)としてgh∈N_G(T)を示します。
g^{-1}Tg=T,h^{-1}Th=Tなので、
(gh)^{-1}Tgh=h^{-1}g^{-1}Tgh=h^{-1}Th=Tとなり、gh∈N_G(T)がわかります。
②)
e単位元とするとe^{-1}Te=Tが成り立つのでe∈N_G(T)です。
③)
g^{-1}∈N_G(T)を示します。
N_G(T)=\{g∈G|g^{-1}Tg=T\}
=\{g∈G|Tg=gT\}なので、
Tg^{-1}=g^{-1}Tを示せばよいですが、これはgT=Tgから成り立ちます。 ■

(2)
まずTN_G(T)の部分群であることを示します。と言っても、対角行列の積・逆元はまた対角行列なので明らかです。
次に∀g∈N_G(T),g^{-1}Tg=Tを示せばよいですが、N_G(T)の定義から成り立つことがすぐにわかります。 ■

(3)
まずT=\{\begin{pmatrix}x&0\\0&y\end{pmatrix}|x,y∈ℝ,xy≠0\}です。
次にN_G(T)を見てみましょう。
\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}∈N_G(T)とすると、
これはad-bc≠0と以下を満たします:
\displaystyle \begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}^{-1}\begin{pmatrix}x&0\\0&y\end{pmatrix}\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}=\frac{1}{ad-bc}\begin{pmatrix}adx-bcy&(x-y)bd\\(y-x)ac&adx-bcy\end{pmatrix}
この右辺が対角行列になり、更にx,yは任意なので、
\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}∈N_G(T)ac=0∧bd=0を満たします。
ところが、先述したようにad-bc≠0なので、これを考慮すると
a=d=0∧b≠0≠c」または「b=c=0∧a≠0≠d」となり、結局以下の形に限られることがわかります:
\begin{pmatrix}a&0\\0&d\end{pmatrix},\begin{pmatrix}0&b\\c&0\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}\begin{pmatrix}c&0\\0&b\end{pmatrix}
したがって、N_G(T)/T=\{T,\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}T\}となり、これは位数2の群なので2次の巡回群C_2に同型です。 ■

[3]

f:id:zangiriontwitter:20200109233135j:plain
(以下解答)
(1)
計算するとf(x+1)=(x+1)^p-(x+1)-1=f(x)が分かるので、帰納的にα+1,...,α+p-1f(x)の解になります。 ■


(2)
f(x)が可約、つまりf(x)=g(x)h(x)となるg(x),h(x)∈F[x] があったとします。
このとき、g(x)
\prod^n_{k=1}(x-(α+m_k) )\ \ (1≦n≦p-1,m_k∈Fで各m_kは相異なる)
と表されます(なぜなら、f(x)微分するとpx^{p-1}-1=-1となり、f(x)との共通根を持たないため、f(x)が分離的だからです)。g(x)n-1次の項の係数は-nα-Σm_kですが、これはFに属する(g(x)∈F[x] なので)のでα∈Fとなります。したがって、f(x)が可約ならその根は全てFの元です。 ■

(3)
ℤからFへ自然な準同型π\colon ℤ→Fが生えます。このπから誘導される準同型ℤ[x]→F[x] \tilde{π}と書きます。
f(x)ℤ[x] 上可約だと仮定して矛盾を導きます。仮定から\tilde{π}(f(x) )は可約ですが、このとき(2)からf(x)=x\prod (x-m)となります。しかし、両辺の定数項が一致しないので矛盾です。
したがって、f(x)ℤ[x] 上既約です。 ■

2019年度専門科目

[3]

f:id:zangiriontwitter:20200110172330j:plain
(以下解答)
(1)
f(x)が可約であったとします。f(x)は4次多項式なので、①1次×3次か②2次×2次の形に分解されます。
①の形に分解されたと仮定します。
このとき1次の因子は(x-a),a∈F_2と書けるのでf(x)F_2上に根を持ちますが、f(0)≠0≠f(1)なのでこれは矛盾です。
②の形に分解されたと仮定します。
f(x)=(x^2+ax+b)(x^2+cx+d)とすると
係数を比較してa+c=1,bd=1,b+d+ac=1が全て同時に成り立ちます。後ろの2つからa=b=c=d=1が従いますが、これはa+c=1に矛盾します。

以上よりf(x)F_2[x] 上既約です。 ■

(2)
準同型定理から、Imφ=K,Kerφ=(f(x) )となる環準同型φ\colon F_2[x]→Kを構成すればよいです。実際φ(x)=θとしこれをF_2[x] 上に延長すると条件を満たすことがわかります。
次に拡大次数[K\colon F_2] ですが、これはK=F_2(θ)よりθF_2上の最小多項式f(x)の次数に等しいです。つまり[K\colon F_2] =4です。 ■

(3)
まず準同型であることを示します。
が、和・積・単位元を保つことは計算すればすぐにわかるので略します。
次に同型であることを示します。
KF_2上の基底として1,θ,θ^2,θ^3が取れますが、これがσによってどう写るか見てみましょう。
計算すると各々1,θ^2,θ^4=θ^3+θ^2+θ+1,θ^6=θ^2・θ^4=θに写ることがわかります。
これはまたKF_2上の基底となるので、σ全単射、したがって同型です。 ■

(4)
K=F_2(θ)σF_2の元を変えないので、θの写り先だけ見れば充分です。先の議論から
σ(θ)=θ^2
σ^2(θ)=θ^4
σ^3(θ)=θ^8=θ^2・θ^6=θ^3
σ^4(θ)=θ^6=θがわかります。
θ^2,θ^3,θ^4が全てθと異なるので、、σの位数は4です。
また、K上の自己同型はf(x)の根をf(x)の根に写さなければなりませんが、先の議論からid,σ,σ^2,σ^3で尽くされることがわかります。よって求める自己同型群は4次の巡回群C_4です。 ■

2018年度専門科目

[3]

f:id:zangiriontwitter:20200111193745j:plain
(以下解答)
(1)
もしx^2+1が可約だとすると、1次式の積に分解されます。したがってF_3上に根を持つはずですが、計算してみると0,1,2は根にならないので矛盾します。よってx^2+1F_3上既約です。 ■

(2)
α^2+1=0に気を付けると、
α=(α-1)+1なので( (α-1)+1)^2+1=0となります。
よって(α-1)^2+2(α-1)+2=0なのでα-1x^2+2x+2=x^2-x-1の根です。この多項式F_3上に根を持たないので既約で、したがってα-1F_3上の最小多項式になります。
同様にしてx^2+x-1α+1の最小多項式になることも分かります。 ■

(3)
(x^2-x-1)(x^2+x-1)=x^4+1なので、
x^9-xF_3上で
x^9-x=x(x^2-x-1)(x^2+x-1)(x^2+1)(x+1)(x-1)と分解されます。この多項式の根は全てF_3(α)の元です。つまりK⊂F_3(α)ですが、拡大次数の関係からF_3(α)⊂Kもわかります。よってK=F_3(α)です。 ■

カルテシアン圏上の余代数

余代数について調べていた所、「\mathrm{Set}(もっと一般にカルテシアン圏)上の余代数構造は一意に定まる」という文を見つけました。「ほんまか?」と思い色々考えていたのですが、どうやら簡単に示せるようなので、備忘録も兼ねてブログにします。
前提知識は圏論の初歩(圏・関手・自然変換の定義・性質等)です。

さて、まずモノイダル圏を定義します。
[定義]
(C,⊗︎,α,1,ℓ,r)が以下を満たすとき、この組(或いは単にC)をモノイダル圏と呼びます:
Cは圏。(基礎圏と呼びます。)
⊗︎:C×C→Cは(双)関手。(モノイダル積と呼びます。)
α:(-⊗︎-)⊗︎-→-⊗︎(-⊗︎-)は自然同型。(結合子と呼びます。)
1Cの対象。(単位対象と呼びます。)
ℓ:1⊗︎-→-r:-⊗︎1→-は自然同型。(左単位、右単位と呼びます。)
・次の図式*1が可換。(五角公理と呼びます。):
f:id:zangiriontwitter:20191123001640j:plain
・次の図式*2が可換。(三角公理と呼びます。):
f:id:zangiriontwitter:20191123001728j:plain

五角公理と三角公理が比較的謎な概念だと思いますが、実は結構自然なんですよ。というのも、マックレーンの連接定理という定理があって、五角公理と三角公理を満たす(連接である と言ったりもします)なら⊗︎の結合を自由に入れ替えたり1を入れたり抜いたりしてよいことが保証されるのです。(詳しくは『圏論の基礎』をご覧下さい。)

例)集合の圏\mathrm{Set}は 通常の直積×をモノイダル積としてモノイダル圏になります。また、環R上の加群の圏\mathrm{Mod}_Rテンソル積⊗︎をモノイダル積としてモノイダル圏になります。

モノイダル圏があると、その上の余代数(余モノイド対象とも言います)が定義できます。
[定義]
Cを先述したセッティングの下、モノイダル圏とします。(M,δ,ε)が以下を満たすとき、この組(或いは単にM)をC上の余代数と呼びます:
MCの対象。
δ:M→M⊗︎MCの射で次の図式を可換にする:f:id:zangiriontwitter:20191123013719j:plain
(δMの余積と呼びます。)
ε:M→1Cの射で次の図式を可換にする:
f:id:zangiriontwitter:20191123020934j:plain
(εMの余単位と呼びます。)

次に(圏論的)直積を定義します。
[定義]
Iを有限離散圏(対象が有限個で、射は恒等射のみの圏)、X_{(-)}:I→Cを関手とします。
Cの対象Πが以下を満たすとき、ΠC上の圏論的(有限)直積(或いは単に有限直積)と呼びます:
・任意のi∈Iに対し、C内の射P_i:Π→X_iが存在する。(射影と呼びます)
・射影を持つ対象π∈Cとその射影p_i:π→X_iについて、任意のi∈Iに対してP_i∘f=p_iとなるようなC内の射f:π→Πが一意に存在する。(つまりΠ\{P_i\}_{i∈I}は普遍性を持つ。) ( [tex:f を仲介射と呼びます。)
このときΠΠ_{i∈I}X_iと表し、特にI={1,2}のときX_1×X_2と表します。

有限直積をカルテシアン積とも呼びます。有限直積が常に存在する(有限直積を持つ)圏は自然にモノイダル圏になるので、これをカルテシアン圏やカルテシアンモノイダル圏と呼びます*3
[証明]
カルテシアン圏Cがモノイダル圏となることを示しましょう。
まずモノイダル積をカルテシアン積×とし、結合子を自然な仲介射によって定めます。これらが五角公理を満たすことは直積の普遍性から明らかです。
次に終対象(Iが空圏のときの圏論的直積)を取りTとします。T⊗︎Xを考えましょう。これは射影p:T⊗︎X→Xを持ちます。XIが一点圏のときの圏論的直積と思える(射影は恒等射)ことに注意すると、仲介射f:X→T⊗︎Xが在ってp∘f=id_X,f∘p=id_{T⊗︎X}となることがわかります。つまりpは同型射です。これを左単位としましょう。同様にして右単位を取ると、これらが三角公理を満たすことがわかります。
以上より、カルテシアン圏は自然にモノイダル圏と看做せることがわかりました。 ■

例)\mathrm{Set}は通常の直積をカルテシアン積としてカルテシアンモノイダル圏になります。終対象は一点集合\{*\}です。

準備が終わりましたので本題に入ります。
次の定理を示します:
[定理]
カルテシアンモノイダル圏の対象は自然に余代数と思える。また、カルテシアンモノイダル圏の対象の余代数構造はこの自然な方法によるものしかない。
[証明]
まず対角射と呼ばれる射を定義します。X×Xを考えると、これはXXへの射影を持ちますよね。同様にXを(圏論的直積として)考えると、これもXへの射影を持ちます。すると仲介射Δ_X:X→X×Xがただ一つ生えます。この仲介射Δを対角射と呼びます(Δ_X(x)=(x,x)だからです)。[tex:XからX×Xへの射は この対角射しかないわけですから、余代数構造は定まったとしても高々1つの方法によります。
後は対角射によって余代数構造が定まることを見ればよいです。δ=Δ_Xとし、ε:X→TTが終対象であることから自然に定まる射とすると、これらが満たすべき(余代数の)図式に出てくる射は全て唯一になります。よって図式全体は可換です。つまり、(X,Δ_X,ε)C上の余代数となります。
以上より示したい定理が示せました。 ■

例)\mathrm{Set}において、全ての集合は対角射とε:x⟼*によって余代数の構造を持ちます。逆に、\mathrm{Set}上の余代数は対角射とεによって与えられるものに限ります。

前置きがやたら長くなってしまいましたが、主定理の証明は普遍性をぶん回すだけなのでそこまで難しくないですね。個人的には『ベーシック圏論』の演習問題になっていてもおかしくない難易度だと思いました。
対角射周辺の議論が少し怪しい気がしているので、何か致命的な間違いがあれば御指摘下さると助かります。
ここまで読んで頂き有難うございました。

【追記】
本筋には差程関係ありませんが、ここには書いてない定理として「カルテシアン圏は対称モノイダル圏」「カルテシアン閉圏はモノイダル閉圏」「カルテシアン圏の余代数は余可換」が成り立ちます。

*1:蛇足なんですが、最初に((w⊗︎x)⊗︎y)⊗︎zを書き、そこからidとαと⊗︎の組み合わせで可能な射を全て挙げるとこの図式が出てきます。つまり、結合子を考えるなら この図式が可換であることを要請するのはすごく自然なことなのです。

*2:λはℓに、ρはrに読み替えて下さい。

*3:有限直積(または有限極限)を持つ圏をカルテシアン圏と呼び、それをモノイダル圏と看做したものをカルテシアンモノイダル圏と呼ぶことが多いようです。

有限群の淡中再構成(Tannaka Reconstruction)その3

今回も前回( https://zangiri.hatenablog.jp/entry/2019/10/18/202302 )、前々回( https://zangiri.hatenablog.jp/entry/2019/10/17/023930 )に続き、有限群の淡中再構成を紹介していきます。
さて、いくつかの補題と主定理の証明をします。

補題3

[補題3]
TFテンソル自然自己同型とする。
このときTT_{ℂG}(1)によって完全に決定される。
[証明]
(V,φ)を任意の表現とし、v∈Vとします。
表現の射f_v:(ℂG,ℓ)→(V,φ)f_v(g)=φ(g)(v)と定めましょう。
これが実際に表現の射になることは容易に分かります(確かめてみてください)。
また、この射は表現(V,φ)によってただ一つに定まります。
さて、下の図式を考えましょう。
(F( (ℂG,ℓ) )=ℂG,F( (V,φ) )=V,F(f_v)=f_vに気をつけてください。)
ℂG-f_v→V
↓T_{ℂG}\ \ \ \ \ \ \ \ \ \ ↓T_V
ℂG-f_v→V
これは可換なので、
f_v(T_{ℂG}(1))=T_V(f_v(1))=T_V(v)
となります。
これが任意の(V,φ),v∈Vに対して成り立つので、TT_{ℂG}(1)のみによって決まることがわかります。■

補題4

Gの元g∈Gは、群代数の余積Δに対してΔ(g)=g⊗︎gを満たします。
つまり「g∈G⇒Δ(g)=g⊗︎g」は真になります。
この命題の逆を考えてみましょう。
群代数ℂGの元vが群的元であるというのを 群代数の余積Δに対してΔ(v)=v⊗︎vが成り立つことと定義して、群的元について考察します。

[補題4]
群代数ℂGの群的元は群Gの元である。
[証明]
v=\sum_{g∈G}v_gg∈ℂGを群的元とします。
このとき
Δ(v)=v⊗︎v
=(\sum_{g∈G}v_gg)⊗︎(\sum_{g'∈G}v_g'g')
=\sum_{g∈G}\sum_{g'∈G}v_gv_g'(g⊗︎g')
となります。
一方、余積の定義から
Δ(v)=\sum_{g∈G}v_g(g⊗︎g)です。
この二つは等しいので、v_g≠0とすると
v_gv_g'=δ_{g,g'}v_g(δクロネッカーのデルタ)となり、よってv_g'=δ_{g,g'}となります。
このとき
v=\sum_{g'∈G}v_g'g'=\sum_{g'∈G}δ_{g,g'}g'=g∈Gとなります。■

補題5

[補題5]
任意のテンソル自然自己同型Tに対して、T_{ℂG}(1)は群的元である。
[証明]
Tテンソルを保つ(テンソル自然変換である)ことを使います。
下の図式を考えましょう。
ℂG-Δ→ℂG⊗︎ℂG
↓T_{ℂG}\ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ ↓T_{ℂG⊗︎ℂG}
ℂG-Δ→ℂG⊗︎ℂG
このとき
Δ(T_{ℂG}(1))
=T_{ℂG⊗︎ℂG}(Δ(1))
=T_{ℂG⊗︎ℂG}(1⊗︎1)
=(T_{ℂG}⊗︎T_{ℂG})(1⊗︎1)
=(T_{ℂG}(1))⊗︎(T_{ℂG}(1))
となるのでT_{ℂG}(1)は群的元です。■

主定理

補題が揃ったので主定理の証明をします。

[定理]
有限群Gに対し、忘却関手F:\mathrm{Rep}_G→\mathrm{Vect}_ℂテンソル自然自己同型群\mathrm{Aut}^⊗︎(F)が構成でき、
群準同型\mathcal{i}:G→\mathrm{Aut}^⊗︎(F)は同型である。
[証明]
補題1,2より\mathcal{i}単射群準同型なので、全射であることを示します。
T∈\mathrm{Aut}^⊗︎(F)としましょう。
補題3よりTT_{ℂG}(1)によって決まりますが、補題4,5よりこれはGの元です。
よってT_{ℂG}(1)=g∈Gとすると、
任意の表現(V,φ)およびv∈Vに対して
T_V(v)=f_v(g)=φ(g)(v)=T^g_V(v)となり、
したがってT=T^gとなります。
以上より\mathcal{i}全射、したがって同型です。■

今証明した定理を短くまとめると「有限群は その表現の成す圏から適当な自然自己同型群によって復元できる」となります。これは有限群以外についても成り立つことが知られており、まとめて「淡中再構成(Tannaka reconstruction)」と呼ばれています。
「淡中双対(tannaka duality)」で調べると他にも淡中再構成できる対象が見つかりますので調べてみてください。

有限群の淡中再構成(Tannaka Reconstruction)その2

前回( https://zangiri.hatenablog.jp/entry/2019/10/17/023930 )に引き続き有限群の淡中再構成を紹介していきます。今回はいくつかの補題を述べたいと思います。

補題1

[補題1]
有限群Gとその元g∈G及びGの表現(V,φ)に対して
線型写像T^g_{(V,φ)}
∀v∈V,T^g_{(V,φ)}(v)=φ(g)(v)と定義する。
このとき射の族T^g=\{T^g_{(V,φ)}\}_{(V,φ)∈\mathrm{Rep}_G}
忘却関手Fテンソル自然自己同型である。
[証明]
T^g
①自然変換F⇒Fであること
②自然同型であること
テンソル自然変換であること
を示せばよいです。
①)下の図式を考えましょう。
F( (V,φ) )-F(f)→F( (W,ψ) )
T^g_{(V,φ)}↓\ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ ↓T^g_{(W,ψ)}
F( (V,φ) )-F(f)→F( (W,ψ) )
この図式が可換になればよいです。
つまり、任意のv∈Vに対し
T^g_{(W,ψ)}(f(v))=f(T^g_{(V,φ)}(v))となればよいです。
実際、
(左辺)=ψ(g)(f(v) )
(右辺)=f(φ(g)(v) )であり、
fは表現の射なのでこの二つは等しいです。
よって、T^gは自然変換F⇒Fです。
②)T^{g^{-1}}_{(V,φ)}を考えましょう。
T^g_{(V,φ)}T^{g^{-1}}_{(V,φ)}(v)
=φ(g)φ(g^{-1})(v)
=φ(e)(v)
=vであり、
これが任意のv∈Vに対して成り立つので、
T^g_{(V,φ)}T^{g^{-1}}_{(V,φ)}=id_Vであり、
同様にT^{g^{-1}}_{(V,φ)}T^g_{(V,φ)}=id_Vもわかります。
以上より、各(V,φ)に対してT^g_{(V,φ)}は同型なので、それらをコンポーネントとする自然変換T^gは自然同型です。
③)x∈V⊗︎Wを考えましょう。
x=\sum_{i,j}v_i⊗︎w_jと表せます。
このとき
T^g_{(V,φ)⊗︎(W,ψ)}(x)
=T^g_{(V,φ)⊗︎(W,ψ)}(\sum_{i,j}v_i⊗︎w_j)
=T^g_{(V⊗︎W,φ⊗︎ψ)}(\sum_{i,j}v_i⊗︎w_j)
=(φ⊗︎ψ)(g)(\sum_{i,j}v_i⊗︎w_j)
=\sum_{i,j}(φ(g)(v_i) )⊗︎(ψ(g)(w_j) )
=\sum_{i,j}(T^g_{(V,φ)}(v_i) )⊗︎(T^g_{(W,ψ)}(w_j) )
=(T^g_{(V,φ)}⊗︎T^g_{(W,ψ)})(\sum_{i,j}v_i⊗︎w_j)
=(T^g_{(V,φ)}⊗︎T^g_{(W,ψ)})(x)となります。
これが任意のx∈V⊗︎Wについて成り立つので、
T^g_{(V,φ)⊗︎(W,ψ)}=T^g_{(V,φ)}⊗︎T^g_{(W,ψ)}となります。
つまりT^gテンソル自然変換です。■

補題2

[補題2]
写像\mathcal{i}:G→\mathrm{Aut}^⊗︎(F)
\mathcal{i}(g)=T^gと定義する。
このとき\mathcal{i}単射群準同型である。
[証明]
①群準同型であること
単射であること
を示します。
①)任意の表現(V,φ)v∈V,g,g'∈Gに対して
T^{gg'}_{(V,φ)}(v)
=φ(gg')(v)
=φ(g)φ(g')(v)
=T^g_{(V,φ)}T^{g'}_{(V,φ)}(v)
が成り立つので、
\mathcal{i}(gg')=\mathcal{i}(g)\mathcal{i}(g')となります。
つまり\mathcal{i}は群準同型です。
②)群準同型であることを示したので核が\{e\}(自明群)であることを示しましょう。
T^g=Id_F⇒g=eを示せばよいので、g≠e⇒T^g≠Id_Fを示します。
ところで、Id_Fとは自然変換F⇒Fであり
任意の表現(V,φ)に対してId_{F_{(V,φ)}}=id_{F( (V,φ) )}=id_Vが成り立つものでした。
故に、或る表現(V,φ)が在ってT^g_{(V,φ)}≠id_Vとなるものが取れればよいです。
実際V=ℂG,φ=ℓ(正則表現)とすればg≠eである限りT^g_{(ℂG,ℓ)}≠id_Vとなり条件を満たします。
以上より\mathcal{i}単射です。■


次回はこの準同型\mathcal{i}全射である、つまり同型であることを示すことを目標とします。