Rigid monoidal category⇒Closed monoidal categoryの証明
題名の通りです。
双対対象(ベクトル空間に対する双対空間のようなもの)を持つ圏をRigid monoidal category(和名:剛モノイダル圏)といい、内部Hom(ベクトル空間に対する写像空間のようなもの)を持つ圏をClosed monoidal category(和名:閉モノイダル圏)といいます。
ベクトル空間の圏はこの2つの圏の例になっており、実際に双対空間V*や写像空間Hom(V,W)を定義することができます。
線形代数によく親しんだ方なら分かると思いますが、実はベクトル空間についてはHom(V,W)≅V*⊗︎Wという関係が成り立っています。一般のモノイダル圏についてもこれと似た関係があり、題名になっている関係が成り立つので、備忘録がてらこれの証明を記事にします。
間違い*1などあれば教えて下さると助かります。
この記事ではモノイダル圏に関する基礎事項は既知とします。モノイダル圏を学ぶための標準的な教科書(和書)は『圏論の基礎』でしょうが、英語でも構わないのであればサーベイのpdfがネット上で沢山公開されているのでそれらを読むと良いでしょう。
モノイダル圏の定義は『カルテシアン圏と余代数』( https://zangiri.hatenablog.jp/entry/2019/11/23/031706 )にも書かれていますので目を通してみてください。
Rigid
以下をstrictな*2モノイダル圏とします。
また、をしばしばとも書きます。
[定義](Rigid object)
に対して
があり、
これらがを満たすとき、
をright*3 dualizable objectと呼び、組または単にをのright dual objectと呼びます。また、right dualizable objectはしばしばright rigid objectとも呼ばれます。
同様に、left dual objectがの適当な組として定義されます。
がleft dualizableかつright dualizableでleft dualとright dualが同型である時、をbi-dualizable object、をbi-dual object*4と呼びます。
後で示しますが、right dual objectは存在すれば同型を除いて一意なので、しばしばと表されます。同様にleft dual objectはと表されます。また、bi-dualの時にはと表すことが多いです。
[定義](Rigid category)
モノイダル圏の対象が全てright(left,bi) dualizableであるとき、したがって全ての対象がright(left,bi) dual objectを持つとき、モノイダル圏はright(left,bi) rigid monoidal categoryであるといいます。
(例)
有限次元k-ベクトル空間の圏の対象はdual objectとしてを持ちます。ゆえには(bi-)rigid categoryです。
Closed
[定義](tensor action)
とします。関手をright*5 tensor action (functor)と呼びます。
余談*6
同様に、をleft tensor actionと呼びます。
とが自然同型であるとき、関手をbi-tensor action functorと呼びます。
[定義](closed object)
right tensor action functorが右随伴を持つとき、をright closed objectと呼び、の右随伴をと表します。
同様に、left tensor action functorが右随伴を持つとき をleft closed objectと呼び、随伴をと表します。
bi-tensor action functorが右随伴を持つとき、をbi-closed objectと呼び、その随伴をと表し、internal hom functorと呼びます。このinternal hom functorは 定義からと自然同型です。
[定義](Closed category)
モノイダル圏の対象が全てright(left,bi) closedであるとき、モノイダル圏はright(left,bi) closed monoidal categoryであるといいます。
(例)
においてにはベクトル空間の構造を自然に入れることができ、よってこれは関手を定めます。この関手はbi-tensor actionの右随伴になっており、これが任意のについて成り立つので、はbi-closed monoidalです。
一般のモノイダル圏においてもはHom集合のような役割を果たすので 内部ホム(internal hom)という名前が付いています。(ホムが またモノイダル圏の"内部"に入る([X,Y]∈Vとなる)ので「内部ホム」です。)
Rigid⇒Closed
次の定理を示します:
[定理](rigid⇒closed)
right rigid objectはright closed objectです。
[証明]
とし、これをright rigid objectとします。
をで与え、これがの右随伴になっていることを示します。
そのためには(余)単位射を与え、これらが任意のに対して三角等式を満たすことを示せばよいです。(このことの証明は例えば『ベーシック圏論』に載っています。)
とすれば、は関手なので、right rigid objectの定義から明らか三角等式に満たします。 ■
これと殆ど同様にしてleft rigid object⇒left closed objectも示せます。
また、以下の系を得ます:
[系]
・bi-rigid object⇒bi-closed object
・right(left,bi) rigid monoidal category⇒right(left,bi) closed monoidal category
このことを鑑みて、(bi-)closed monoidal category においてとし、これをweak dualと呼ぶことがあるようです(が、使い道はよく分かりません)。例えばにおいてはなので妥当な定義と言えます。
先程「あとで示す」と言っていた「dual objectは同型を除いて一意」を示します。これは「rigid objectならclosed object」を使うと簡単に示せます。
[定理]
を(right) rigid objectとし、そのdual objectをとします。このときです。
[証明]
はXのright dual objectなので、「right rigid objectならright closed object」からとなります。随伴は自然同型を除いて一意なので自然にであり、これに1を代入すればが得られます。■
Appendix:Braided
[定義](Braided object)
がBraided objectであるとは、任意の対象に対して射があって、これが自然に同型であることです。
つまり、自然変換があってこれが自然同型であるときをBraided objectと呼びます。
[命題]
が自然同型であることとがBraided objectであることは同値です。
同様に、が自然同型であることとがBraided objectであることは同値です。
また、がBraided objectであるとき、left(right) tensor action functorやleft(right) internal hom functorはbi-〜になります。
[定義]
モノイダル圏の全ての対象がBraidedであり、
が,を満たすとき、をBraided monoidal categoryと呼びます。
[命題]
Braided monoidal category内においては左右の概念は一致し、どちらもbi-となります。
*1:ただし、呼称や表記の揺れは除く。
*2:つまり、(a⊗︎b)⊗︎c=a⊗︎(b⊗︎c),1⊗︎a=a=a⊗︎1を課します。strictでない場合にも殆ど同様の議論ができます。
*3:文献によってはleftとしている場合があります。というか寧ろleftの方が多いように感じます。しかし、ここでは 後で定義する概念の左右の適合のためにrightとしています。
*4:単にdualと呼ばれることが多いですが、混乱すると思ったのでbi-を付けることにしました。あまり見かけませんが既存の用語です。
*5:右からかけるのでrightです。これについては呼称の揺れはあまり無いようです。
*6:-⊗︎XがモナドになるのとX=1⊗︎Xがモノイドであることは同値です。また、これをAb上で考えると、モナドであるright tensor actionの代数(加群)と環上の右加群は概念として一致します。
淡中再構成(モノイド作用)
淡中双対の簡単な例(モノイド作用を使った例)を紹介します。
※この記事では米田の補題(『ベーシック圏論』第4章までの内容)は既知とします。
Terminology
以前『有限群の淡中再構成』( https://zangiri.hatenablog.jp/entry/2019/10/17/023930 )という記事を書きました。これは(有限)群の表現による淡中双対でしたが、今回は作用による淡中双対を見るので、内容が少しズレます。その分 直感的で易しくなると思います。
まずは幾つかの用語を定義します。分からない単語等があればncatlabを参照すると良いでしょう。
モノイドの圏
集合の成す圏をと表します。
は有限極限を持つのでカルテシアンモノイダル圏です。したがって、モノイド対象が定義できます:
がモノイド対象であるとは
は集合、,は写像で、以下の図式を可換にすること:
今回はモノイド対象をの上で考えるので、モノイド対象を単にモノイドと呼びます。
また、を略してと書くことがあります。
モノイドは乗法と単位を持つので、この2つを保つものとしてモノイド射を定義できます:
がモノイド射であるとは
・はモノイドで、は写像
・
の両方を満たすことです。
モノイドを対象としてモノイド射を射とすると圏を成すので、この圏をと表します。
今まで大仰にモノイドとその射を定義しましたが、所謂普通のモノイド・モノイド準同型を圏論の言葉に訳したに過ぎないので、よくわからなければそちらで認識して頂いて構いません。
Lemma
忘却関手を(の)ファイバーと呼びます。ファイバーについて以下の定理(補題)が成り立ちます。
[補題]
ファイバーは表現可能です。
特に、です。
[証明]
以後を略してと書くことにします。
①②を示せばよいです。
①)
同型を与える写像を構成すればよいです。
実際、とするとこれは全単射になります*1 *2。
②)
ですが、とが対応することを考えれば、という対応によりとなります。 ■
Main Theorem
ファイバーの自己自然変換の成すモノイド*3をと表します。
このについて、以下の定理が成り立ちます:
[定理1]
とは集合として自然に同型。
[証明]
先の補題と米田の補題から
■
さらに、モノイドとしても同型であることがわかります:
[定理2]
とはモノイドとして同型。
[証明]
まずに自然に積が入ってモノイドになることを示します。
補題の証明の①からであり、この同型がで与えられることが分かります。
また、定理1の証明と米田の補題からであり、この同型がで与えられることが分かります。
この2つの対応を合成してを考えると、これが積を与えモノイドを成すことが分かります。
またこのモノイド準同型であることもすぐにわかり、したがってモノイド同型を与えることもわかります。■
これはつまり、
モノイドについて調べたい時は それが作用する集合(言わば「表現」)を見れば充分であり、またそこから得られた性質はファイバーとその圏論的性質から復元できるということです。
この モノイド~表現 の対応のことを淡中双対といいます。今回の場合は「モノイドとモノイド作用付集合は淡中双対」という言い方ができます。
ふつう淡中双対と言うと「局所コンパクト群とその表現は淡中双対」というのを指すことが多いですが、今回のような身近で簡単な例にも淡中双対が現れます。
少し踏み込んで、次の系を紹介します。
[系]
定理2において、特にが群であるとき、が成り立ちます。
この系は「代数群(代数多様体の圏の群対象)とその表現は淡中双対」というよく知られた定理と全く同じ形*4をしています。
この代数群の表現の圏は淡中圏と呼ばれており、代数学・圏論に限らず 色んな分野で活躍している概念です。
ncatlabで「Tannaka duality」等と調べると さらに踏み込んだ話や参考文献が出てきますので是非ご覧下さい。
最後まで読んで頂き有難うございました。
フィルター空間
フィルター空間と呼ばれる「空間」に関する議論の紹介・覚え書きです。何か致命的な間違いがあれば教えて下さると助かります。
フィルターとフィルター空間
フィルター
集合と空でない*1の部分集合について、
が
①フィルター基である⇔
②フィルターである
⇔①かつ
③固有フィルターである
⇔①②かつ
※フィルターに対しては ②と②':は同値
フィルター基に対してはフィルターになる。これをフィルター基から生成されるフィルターと呼ぶ。特にに対してはフィルター基になるのでをと表す。これは点フィルター、主フィルター、単項フィルター等と呼ばれる(ここでは点フィルターと呼ぶ)。同様にについてもはフィルターになる(ここではこれを単項フィルターと呼ぶ)。
集合上の固有フィルター全体の集合をと表す。における(包含に関する)極大元を極大フィルターと呼ぶ。点フィルターは極大フィルターになる(ZFC)ので主極大フィルター等と呼ばれることがある(が、ここでは単に点フィルターと呼ぶ)。
フィルター空間の性質
以下をフィルター空間とし、
を台集合の部分集合とする。
フィルター空間の開核・閉包
とし、それぞれの開核・閉包と呼ぶ。
開核・閉包に対して以下の公式が成り立つ:
[Thm. 1.]
(1)
(2)
(3)
(4)は包含(による順序)を保つ。
が◎を満たすとき、前節の①はに同値である。
さらにこれがフィルター空間である(◎と①を満たす)なら、以下も成り立つ:
[Cor. 1.]
(1)
(2)
分離性
位相空間に対する分離公理はフィルター空間に対しても定義され、またこの二つは一致することが知られている。以下に定義を記す(量化子や記号の説明は適宜省略するので察してほしい。):
①
②
③
④
⑤
⑥
フィルター空間に対しては
が成り立つ。
また、フィルター空間がコンパクトであるとは 任意のフィルターが極限を持つことである。
したがって、フィルター空間がコンパクトハウスドルフであるとは、任意のフィルターがただ一つの極限を持つことに他ならない。
特殊なフィルター空間
いくつかの特殊なフィルター空間のクラスを紹介する。こちらも量化子や記号の説明は適宜省略する。
フィルター空間が
②収束空間⇔
③極限空間⇔
④擬位相空間⇔
⑤前位相空間⇔*2
⑥位相空間⇔*3
下に行くほど強い条件になっていることに注意せよ。したがって、例えば 擬位相空間⇒収束空間 等が成り立つ。
ところで、私の他にも収束空間についてのブログを書かれているラブルさんという方がいらっしゃるが、ラブルさんの言う収束空間とはここでの極限空間である。
このような揺れは色々な所で見られるようで、フィルター空間が(一般)収束空間と呼ばれ、収束空間がKent 収束空間と呼ばれている文献もあった。ncatlabを見ればここでの定義とほぼ同じ呼称が見られると思う。
位相空間・正則フィルター空間
フィルター空間を通して位相空間を定義し、その"双対"である正則空間も定義する。そのために、二三の概念を定義しておく。
[近日加筆予定:近傍化フィルター,閉包フィルター,定義と"双対"]
フィルターモナド
[近日加筆予定:CH位相空間とT代数、位相空間とUF代数、フィルター空間とΦ代数]
この節ではモナドとその代数に関する知識を要請する。圏論の言葉を知っていればncatlabを参照しながらでも読めると思うが、より詳しく知りたい場合は所謂CWM,HoCA2を読むと良い。
参考文献
(敬称等は省略させて頂く。)
・『位相性と正則性』
loveブルバキ(ラブル)
(リンク↓
http://tetobourbaki.hatenablog.com/entry/2018/08/08/183535 )
・『位相空間の圏と同型な関係T代数の圏について』
阿川 真士
・Lecture Notes in Mathematics
TOPO72 General Topology and its Applications
"Filter Space Monads,Regularity,Completions"
Wyler O.
・"Basic Properties of Filter Convergence Spaces"
Bärber M.R.Stadler , Peter F. Stadler
・"Categories for the Working Mathematician"
Saunders Mac Lane
九大の院試(代数学)を解いた
題名の通りです。九大の院試の過去問を 代数学を中心に解いてみましたので公開します。元の問題はこちら( https://www.math.kyushu-u.ac.jp/entryexams/view/6 )から見ることができます。
※間違い等ありましたらお教え下ると助かります。
2020年度専門科目
[1]
(以下解答)
(1)
部分群であることを示すためには①全域性②単位元の存在③逆元の存在 を示せばよいです。順に見ていきます。
①)
としてを示します。
なので、
となり、がわかります。
②)
を単位元とするとが成り立つのでです。
③)
を示します。
なので、
を示せばよいですが、これはから成り立ちます。 ■
(2)
まずがの部分群であることを示します。と言っても、対角行列の積・逆元はまた対角行列なので明らかです。
次にを示せばよいですが、の定義から成り立つことがすぐにわかります。 ■
(3)
まずです。
次にを見てみましょう。
とすると、
これはと以下を満たします:
この右辺が対角行列になり、更には任意なので、
はを満たします。
ところが、先述したようになので、これを考慮すると
「」または「」となり、結局以下の形に限られることがわかります:
したがって、となり、これは位数2の群なので2次の巡回群に同型です。 ■
2019年度専門科目
[3]
(以下解答)
(1)
が可約であったとします。は4次多項式なので、①1次×3次か②2次×2次の形に分解されます。
①の形に分解されたと仮定します。
このとき1次の因子はと書けるのでは上に根を持ちますが、なのでこれは矛盾です。
②の形に分解されたと仮定します。
とすると
係数を比較してが全て同時に成り立ちます。後ろの2つからが従いますが、これはに矛盾します。
以上よりは上既約です。 ■
(2)
準同型定理から、となる環準同型を構成すればよいです。実際としこれを上に延長すると条件を満たすことがわかります。
次に拡大次数ですが、これはよりの上の最小多項式の次数に等しいです。つまりです。 ■
(3)
まず準同型であることを示します。
が、和・積・単位元を保つことは計算すればすぐにわかるので略します。
次に同型であることを示します。
の上の基底としてが取れますが、これがによってどう写るか見てみましょう。
計算すると各々に写ることがわかります。
これはまたの上の基底となるので、は全単射、したがって同型です。 ■
(4)
ではの元を変えないので、の写り先だけ見れば充分です。先の議論から
がわかります。
が全てと異なるので、、の位数は4です。
また、上の自己同型はの根をの根に写さなければなりませんが、先の議論からで尽くされることがわかります。よって求める自己同型群は4次の巡回群です。 ■
カルテシアン圏上の余代数
余代数について調べていた所、「(もっと一般にカルテシアン圏)上の余代数構造は一意に定まる」という文を見つけました。「ほんまか?」と思い色々考えていたのですが、どうやら簡単に示せるようなので、備忘録も兼ねてブログにします。
前提知識は圏論の初歩(圏・関手・自然変換の定義・性質等)です。
さて、まずモノイダル圏を定義します。
[定義]
が以下を満たすとき、この組(或いは単に)をモノイダル圏と呼びます:
・は圏。(基礎圏と呼びます。)
・は(双)関手。(モノイダル積と呼びます。)
・は自然同型。(結合子と呼びます。)
・はの対象。(単位対象と呼びます。)
・とは自然同型。(左単位、右単位と呼びます。)
・次の図式*1が可換。(五角公理と呼びます。):
・次の図式*2が可換。(三角公理と呼びます。):
五角公理と三角公理が比較的謎な概念だと思いますが、実は結構自然なんですよ。というのも、マックレーンの連接定理という定理があって、五角公理と三角公理を満たす(連接である と言ったりもします)ならの結合を自由に入れ替えたりを入れたり抜いたりしてよいことが保証されるのです。(詳しくは『圏論の基礎』をご覧下さい。)
例)集合の圏は 通常の直積×をモノイダル積としてモノイダル圏になります。また、環上の加群の圏はテンソル積⊗︎をモノイダル積としてモノイダル圏になります。
モノイダル圏があると、その上の余代数(余モノイド対象とも言います)が定義できます。
[定義]
を先述したセッティングの下、モノイダル圏とします。が以下を満たすとき、この組(或いは単に)を上の余代数と呼びます:
・はの対象。
・はの射で次の図式を可換にする:
(をの余積と呼びます。)
・はの射で次の図式を可換にする:
(をの余単位と呼びます。)
次に(圏論的)直積を定義します。
[定義]
を有限離散圏(対象が有限個で、射は恒等射のみの圏)、を関手とします。
の対象が以下を満たすとき、を上の圏論的(有限)直積(或いは単に有限直積)と呼びます:
・任意のに対し、内の射が存在する。(射影と呼びます)
・射影を持つ対象とその射影について、任意のに対してとなるような内の射が一意に存在する。(つまりと を仲介射と呼びます。)
このときをと表し、特にのときと表します。
有限直積をカルテシアン積とも呼びます。有限直積が常に存在する(有限直積を持つ)圏は自然にモノイダル圏になるので、これをカルテシアン圏やカルテシアンモノイダル圏と呼びます*3。
[証明]
カルテシアン圏がモノイダル圏となることを示しましょう。
まずモノイダル積をカルテシアン積×とし、結合子を自然な仲介射によって定めます。これらが五角公理を満たすことは直積の普遍性から明らかです。
次に終対象(が空圏のときの圏論的直積)を取りとします。を考えましょう。これは射影を持ちます。は が一点圏のときの圏論的直積と思える(射影は恒等射)ことに注意すると、仲介射が在って,となることがわかります。つまりは同型射です。これを左単位としましょう。同様にして右単位を取ると、これらが三角公理を満たすことがわかります。
以上より、カルテシアン圏は自然にモノイダル圏と看做せることがわかりました。 ■
例)は通常の直積をカルテシアン積としてカルテシアンモノイダル圏になります。終対象は一点集合です。
準備が終わりましたので本題に入ります。
次の定理を示します:
[定理]
カルテシアンモノイダル圏の対象は自然に余代数と思える。また、カルテシアンモノイダル圏の対象の余代数構造はこの自然な方法によるものしかない。
[証明]
まず対角射と呼ばれる射を定義します。を考えると、これはとへの射影を持ちますよね。同様にを(圏論的直積として)考えると、これもへの射影を持ちます。すると仲介射がただ一つ生えます。この仲介射を対角射と呼びます(からへの射は この対角射しかないわけですから、余代数構造は定まったとしても高々1つの方法によります。
後は対角射によって余代数構造が定まることを見ればよいです。とし、をが終対象であることから自然に定まる射とすると、これらが満たすべき(余代数の)図式に出てくる射は全て唯一になります。よって図式全体は可換です。つまり、は上の余代数となります。
以上より示したい定理が示せました。 ■
例)において、全ての集合は対角射とによって余代数の構造を持ちます。逆に、上の余代数は対角射とによって与えられるものに限ります。
前置きがやたら長くなってしまいましたが、主定理の証明は普遍性をぶん回すだけなのでそこまで難しくないですね。個人的には『ベーシック圏論』の演習問題になっていてもおかしくない難易度だと思いました。
対角射周辺の議論が少し怪しい気がしているので、何か致命的な間違いがあれば御指摘下さると助かります。
ここまで読んで頂き有難うございました。
【追記】
本筋には差程関係ありませんが、ここには書いてない定理として「カルテシアン圏は対称モノイダル圏」「カルテシアン閉圏はモノイダル閉圏」「カルテシアン圏の余代数は余可換」が成り立ちます。
有限群の淡中再構成(Tannaka Reconstruction)その3
今回も前回( https://zangiri.hatenablog.jp/entry/2019/10/18/202302 )、前々回( https://zangiri.hatenablog.jp/entry/2019/10/17/023930 )に続き、有限群の淡中再構成を紹介していきます。
さて、いくつかの補題と主定理の証明をします。
補題3
[補題3]
をのテンソル自然自己同型とする。
このときはによって完全に決定される。
[証明]
を任意の表現とし、とします。
表現の射をと定めましょう。
これが実際に表現の射になることは容易に分かります(確かめてみてください)。
また、この射は表現によってただ一つに定まります。
さて、下の図式を考えましょう。
(に気をつけてください。)
これは可換なので、
となります。
これが任意のに対して成り立つので、はのみによって決まることがわかります。■
補題4
群の元は、群代数の余積に対してを満たします。
つまり「」は真になります。
この命題の逆を考えてみましょう。
群代数の元が群的元であるというのを 群代数の余積に対してが成り立つことと定義して、群的元について考察します。
[補題4]
群代数の群的元は群の元である。
[証明]
を群的元とします。
このとき
となります。
一方、余積の定義から
です。
この二つは等しいので、とすると
(はクロネッカーのデルタ)となり、よってとなります。
このとき
となります。■
補題5
[補題5]
任意のテンソル自然自己同型に対して、は群的元である。
[証明]
がテンソルを保つ(テンソル自然変換である)ことを使います。
下の図式を考えましょう。
このとき
となるのでは群的元です。■
主定理
補題が揃ったので主定理の証明をします。
[定理]
有限群に対し、忘却関手のテンソル自然自己同型群が構成でき、
群準同型は同型である。
[証明]
補題1,2よりは単射群準同型なので、全射であることを示します。
としましょう。
補題3よりはによって決まりますが、補題4,5よりこれはの元です。
よってとすると、
任意の表現およびに対して
となり、
したがってとなります。
以上よりは全射、したがって同型です。■
今証明した定理を短くまとめると「有限群は その表現の成す圏から適当な自然自己同型群によって復元できる」となります。これは有限群以外についても成り立つことが知られており、まとめて「淡中再構成(Tannaka reconstruction)」と呼ばれています。
「淡中双対(tannaka duality)」で調べると他にも淡中再構成できる対象が見つかりますので調べてみてください。
有限群の淡中再構成(Tannaka Reconstruction)その2
前回( https://zangiri.hatenablog.jp/entry/2019/10/17/023930 )に引き続き有限群の淡中再構成を紹介していきます。今回はいくつかの補題を述べたいと思います。
補題1
[補題1]
有限群とその元及びの表現に対して
線型写像を
と定義する。
このとき射の族は
忘却関手のテンソル自然自己同型である。
[証明]
が
①自然変換であること
②自然同型であること
③テンソル自然変換であること
を示せばよいです。
①)下の図式を考えましょう。
この図式が可換になればよいです。
つまり、任意のに対し
となればよいです。
実際、
であり、
は表現の射なのでこの二つは等しいです。
よって、は自然変換です。
②)を考えましょう。
であり、
これが任意のに対して成り立つので、
であり、
同様にもわかります。
以上より、各に対しては同型なので、それらをコンポーネントとする自然変換は自然同型です。
③)を考えましょう。
と表せます。
このとき
となります。
これが任意のについて成り立つので、
となります。
つまりはテンソル自然変換です。■
補題2
[補題2]
写像を
と定義する。
このときは単射群準同型である。
[証明]
①群準同型であること
②単射であること
を示します。
①)任意の表現とに対して
が成り立つので、
となります。
つまりは群準同型です。
②)群準同型であることを示したので核が(自明群)であることを示しましょう。
を示せばよいので、を示します。
ところで、とは自然変換であり
任意の表現に対してが成り立つものでした。
故に、或る表現が在ってとなるものが取れればよいです。
実際(正則表現)とすればである限りとなり条件を満たします。
以上よりは単射です。■
次回はこの準同型が全射である、つまり同型であることを示すことを目標とします。